NOVEL(etc)

□04 Thoroughwort
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俺は何一つ、自分に関することをはっきりと覚えていなかった

俺が記憶を無くした原因の事故で大怪我を負って
真っ暗な宇宙でゴミみたいに浮かんでいた時のことだとか
宇宙で一人漂っていたときの痛くて苦しくて寒くて怖くて寂しくて死んでしまいそうな感覚は少しばかり断片的に覚えている



(忘れてしまいたいのに)



俺が覚えている中で、での最後の記憶で
何かを撃った事は覚えているけど
なにを撃ったのか、なぜ撃ったのかは覚えていない



(なぜ)


(どうして)


(なんのために)



忘れちゃいけないことだった気がする
忘れてしまいたかったことだった気がする

けれど、なにも思い出せない
この空っぽな頭は、何一つ思い出せないのだ





暗闇で目を閉じて、次に目を開けた時に見えたのは真っ暗な闇じゃなくて
眩しい部屋の明かりと赤い髪の女の子


なにも思い出せない、空っぽの癖にグチャグチャの頭と
あちこち痛む、思うように動かない体
それが俺の全てだった



「 」



その時俺は何か言ったのだろうか
無意識つぶやいた言葉は、目の前の少女だけには届いたのかもしれない



(ああ、目蓋が重い)



また眠りに引きずられる自分を自覚して
だけど何となく目の前の赤に上手く動かせない手を伸ばした



「 」



俺は少女に何か言ったらしい
けれど痛みと疲れからくる眠気に抗えずに意識も朧気な俺は
自分が放った言葉も意識も手放して
伸ばした手と意識をシーツに沈めていた





(それが俺の、最後で最初の記憶だった)



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Thoroughwort=藤袴
あの日のことを思い出す






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