NOVEL(etc)
□髪の梯子は切り捨てた
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(全て捨てる覚悟は、ある)
優しい家族の温もりは失った
自分から家族を奪ったあの惨劇を過去にする気なんて自分には更々なかった
何かが焦げる臭い
一瞬で全てが崩れたあの衝撃、光景
瓦礫とヒトと、埃と、灰色に染まった視界
停止した思考回路で見渡した全てと、一瞬後に突きつけられた現実は、全て鮮明に頭にこびりついて離れない
(今だって、)
叫び出したい程、鮮明に
その記憶は自分の中を荒々しく燃やし、焦がす
憎しみと絶望で真っ赤に染まる視界に気が狂いそうになる
けれど、それでいい、と彼女は思っていた
あの日、ニール・ディランディも、きっと一緒に死んだのだろう
あの日、テロの中を生き残ったのは
復讐を誓い、あてのない憎しみと抱えきれない虚無感と絶望で心を埋めた、それまでとは違う人間だったのだから
(だからコレは俺にはもう必要ないものだ)
彼女はそれまで願掛けのように伸ばし続けた長い鳶色の紙を掴み
ナイフでバサリと切り捨てた
準備は整った
腕力ではどうしても男には敵わないと手にした銃は
もうその精密さでは誰にも負けない自信がある
元々長身だったのと女にしてはキリッとした顔立ち
それから鍛えたお陰で、腰回りに詰め物を入れ、長い髪を鬘にひっつめて胸を潰せば細身の男とも通せる体躯を手に入れた
ここ数年男のスナイパーとして築き上げだ繋がりに
思いもよらない大物がかかったのは最近の事だ
(もう、願掛けも要らない)
力と、それからスナイパーとして使っていた名前ではない、新しい名前も貰った
無力を嘆き力を、と願った願掛けはかなった
バスルームにバラバラと散らばる髪に目もくれず
彼女はシャワーの蛇口を捻り、鏡に移った自分自身を睨みつけた
背まであった鳶色の髪は鬘と同じ位置・・・・肩まで切り捨てられ
散らばった髪はシャワーの水で排水溝に押し流されていった
鏡に写っていたのは
あの日、テロで家族を失った少女でもなく、性別を偽り銃を掲げその精密さで名を広めたスナイパーでもない
ガンダムという力を手にしたデュナメスのマイスター
ロックオン・ストラトスという男だった
『髪の梯子は切り捨てた』
最初から王子様なんて招き入れるつもりも無かったけれど!
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