今日の部活は俺とレナだけだ。魅音達は何か用事が
あるとかで帰ってしまった。その用事ってのはだいたい予想がつく。
明日はレナの誕生日。きっとプレゼントでも買いに行ってるんだろう。
ホント、仲間想いでいいヤツだよなぁ、みんなは。
もちろんレナの誕生日プレゼントは俺も買ってある。中学生の俺に
とっては少々痛い金額だったが、レナの満面の笑みを思い浮かべると
まぁ、安いもんだよなって思ってしまう。買ったものは、指輪だ。
少し前にペンダントを買ったから、次もまたアクセサリーで。
女の欲しがるものといまいち分からないから、こんなものしか買えないんだよな。

そういう訳で、二人だけの教室。

レナと俺がやったのはありがちなババ抜きだ。最近俺の部活の成績は
かなりいいんだ。少なくともレナには勝てる!自信もって言えるな。
やっている最中、俺は頭の中で色々考えていた。罰ゲームは何にしてやろうかなって。
スク水着せるか?いいやメイド?ぐふふ、妄想は得意だからな。
これだけで鼻血出そうだよ、まったく。
俺が思ってた通り、レナはズタボロの負け。俺が圧勝!だった。


「さぁ、どんな罰ゲームにしようかな?」


にやっと下品な笑みでレナを見てやる。勝ったんだから何でもいいんだよな。
何にしようかな、んー……と俺が考えていると、レナの小さな声が聞こえた。


「その、へ、へんなもーそうしてないかな、かな?」
「してるぞ。あんな事やこーんな事とかな!」
「え、や、やめてよお!変なのは嫌だからねーっ」
「どーしようかなー?んー?」


まるで変態の親父みたいだ。よろこべ親父、息子も立派に成長しましたよ。

ん―――?

あ、そういえば監督が新しいメイド服持ってきてたんだ。フリフリで
胸元がそりゃあもうやばい感じにあいてるやつ。
まったくいい趣味してるよな。見習うべきなのか、そうでないのか。


「じゃあな、あのメイド服着て俺にご奉仕しろ」
「え、えぇ!?」
「なんだ、できないのか?勝った俺からの命令だぞ?」
「う……。け、圭一くんってば変態だよ、だよ!」
「はは、今更分かったのか?さぁほら早く」


うーっと恥ずかしそうに言った後、諦めたのかとぼとぼと更衣室へと向かう。
あー、すっごい楽しみだな!それに二人きりだし……何したっていいんだよな。

よからぬ妄想をつらつらと思い浮かべていると、メイド姿のレナがいた。


「わっ!お〜、すげえな似合うぜ!」
「う、うう〜、あんま嬉しくないかな、かな?」
「何言ってんだよ!あーっ可愛いなあ!」


ぎゅうっと抱きしめる。下着をつけてないのか、ものすごく柔らかかった。


「は、はうううう〜……」









「はっぴーばあすで〜レナ〜♪」


パチパチと歌に合わせて手拍子をする、今日はレナの誕生日だ。
放課後の教室、俺達部活メンバー以外は教室にいない。

「レナ、誕生日おめでとう!はい、これ私からのプレゼント!」
「はぅ〜〜〜あ、ありがとう魅ぃちゃん!」
「み〜、これは僕と沙都子からなのですよ♪二人で一生懸命選んだのです」
「お金がなくて二人で一つですけれど、愛はこもってましてよッ」
「僕ももってきたのですよ!はい、シュークリームなのです!」

魅音はレナが喜びそうな可愛い人形を、沙都子と梨架ちゃんはけなげに
手作りのクッキーと大きなマフラー、羽入はシュークリーム。
仲間からの温かい言葉とプレゼントに、心底嬉しそうにレナは笑う。
俺はそんなレナを見てると、心がポカポカした。普通な日々の小さくても大きな幸せ。

「で、圭ちゃんは何な訳ー?」
「俺か?ふふ、見て驚くなよー!」
「まあったく、早く出したらどうなんですの?」
「み〜☆なんか楽しみですよ〜♪」
「早く僕も見たいのですよお!」

(ふふ、お前ら見て驚くなよお?)

みんなは興味津々で聞いてくる。レナは恥ずかしそうに、でも期待した目で
俺を見ていた。ばっちりと目が合う、笑ってやった、レナもはにかんで笑った。

「俺のは……じゃあああん!」

……と出すふりをする。

「ちょ、何圭一ちゃん、じらしてどうするのォー?」
「残念だが、このプレゼントはここでは渡せない」
「何でですか?」「何故ですの?」「み〜?」
「け、圭一くん……?」

その代わりと言い、俺は大きな箱を取り出す。

「……あ!」
「いまはこれだけにするぜ!」

大きな丸いケーキを、だ。



「すごいですわねえ〜!まさか圭一さんが……?」
「おう!と言いたいところだが、母さんが作ったんだよ」
「ま、そりゃそうだろうね」
「ですね〜」「み〜☆」
「そ、それでもすごいよ!ありがとう、圭一くん」

持ってきた包丁で、六等分にケーキを切る。ざくっとな。
みんながキャーキャー騒ぐのが、なんだか嬉しかった。
とりあえず上手……に切れたかは分からないが、ケーキを皿にのせて渡す。
ぱくぱくと食べ始めて、美味しいとか甘いだとか感想を述べる。

「……あ、今さらなんだけどさ」
「ん?どうしたの?」
「切る前に年の数だけロウソク立てて祝えばよかったなって……」
「……あ」

魅音が言った事に、全員ポカーンとしてしまった。
確かにそうだった!普通はそうだろ!
年の数だけのロウソクに火をゆけ、ふーって消す。

「あ、あははは気づくのみんな遅いよ?」

まったくだ。








どんちゃん騒ぎの誕生日会は終わった。いやー、以外にもケーキは美味しかった。
今朝起きて、母さんが「これレナちゃんと一緒に食べてね♪」
なんて言って、俺に無理やり持たせたもんだから、少し心配だったんだ。

帰り道、最近寒くて、吐く息が真っ白。

レナの手と触れてしまって、俺は赤面しつつ、ぎゅっとレナの手を握る。

「なあレナ、今日は楽しかったか?」
「う、うん!とーっても楽しかったよ♪」
「そっか、よかった……」

俺は笑った、レナも笑った。



「……ちょっと止まってくれるか?」
「うん?」

ポケットの中で暖めていたものを、レナの指にはめる。
少し素っ気無い感じもするが、大人っぽい指輪。
お小遣いためて買った、レナへのプレゼント。

「ふぇ!?」
「レナ、誕生日おめでとう」
「・・・あ、あの圭一くん、この指輪」
「なんだよ?」
「すっごい綺麗。すごいすごい綺麗!」

レナがぎゅっと俺に抱きついて、声に出して喜びをあらわす。
喜んでくれてよかった。

「ったく、誰かに見られたらどうすんだよ、レナ?」






今日は竜宮レナの誕生日だった。私、梨香もお祝いした。
ねぇ、羽入。私たちが掴んだ幸せ。小さいけどとても大きいものよね。
でもね、これ以上はあるわ、絶対に。私にも、羽入にも、
レナにも圭一にも、みんなに。

もうすぐ冬になる、この世界で私達は生きていこう。
きっと神様だって見守ってくれている、そうでしょう?
くすくす、レナも圭一も今頃何をしているのかしら。
少し興味があるかも、ね。



「今度は普通に遊んで、普通に笑い会って、……普通に恋をしよう」



ほら、あなたはやっぱりすごいわ。レナの約束をきちんと守っている。
これからもレナに小さくても大きな幸せを教えてあげて。

光が射すこの道を、きっと誰もが笑って生きていける。


(20061031)







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