「今日さ、圭一君の家に行っていいかな?……かな?」


帰り道。レナが言ったその言葉に俺の心臓がトクンと跳ねた。
それから何かが押し寄せるように、ドッドッドと心臓の音が早くなる。
どうしてこんな言葉だけでこんなに心臓が……?
落ち着かない心臓のせいか、俺は少し噛んでしまった。


「い、いいよ。今日さ、親父もおふくろもいなからさ」
「え。ご両親いないの・・・?」
「あ、あぁ、親父の仕事で今東京に行っててさ、その、明日の夜まで帰ってこないんだよ」
「そうなんだ。レナ昨日ね、クッキー作ったの。で、その、持ってっていいかな?かな?」
「え、全然平気だぞ!おう!俺さ、クッキー大好きなんだよ、レナのクッキー楽しみだな〜」
「えへへ、じゃあ一回帰ってからだから、7時くらいに行くね」
「おー、じゃあ家で待ってるよ。じゃあな!」
「ばいばい!」


手を振って、さよなら。いつもと同じだけど、いつもと違う一人の帰り道。
(レナが家に来るだけじゃないか……なのに何で俺……)
レナが家に来る。俺の家に。両親は居ない。夜。二人だけ。
という思春期の俺にはかなーり危ないシチュエーション。
あぁ、多分俺は女の子が俺の家に来る事にドキドキしているんだろうな。
そっか、そっかそうだよな。レナじゃなくても女子だったら誰にでもドキドキしちまうんだな。
……なんて、自分を説得(何の説得だか自分でもよく分からない)して家に入った。









***


「おじゃましま〜す」
「ん、どうぞ」


何故か念入りに掃除をしてしまった俺の家は、かなりピカピカだ。
母親が掃除をするが、ここまで綺麗になった家を見るのは引越してきたばかりみたいで。
レナがその事に気づき、圭一君の家ってすっごい綺麗なんだね〜と言ってくる。
俺は、あぁおふくろが掃除好きでさ、なんていい訳らしい言い訳をしてしまった
。だって言えないだろう。レナが家に来るから、一生懸命に掃除したなんて……。
気恥ずかしいんだよな。女みたいでさ。


「圭一君の部屋はどこなのかな?」
「あーこっちこっち。部屋でクッキー食べるか?」
「あ、うん。それがいいな、うん」


にっこりと微笑んで、レナは俺のあとをついてくる。約束した通り、今は夜の7時。
ここは田舎だから、暗くなるのが早い。今日はレナの両親もいないらしく、
親に心配はかけてないらしい。もっともレナの事だから、
それは嘘ではないだろうけど。思春期の男女がこんな時間に、二人きり。
とても危険か香りがする。いや、俺は何もしないからな!
絶対に・・・。


「うわ〜圭一君の部屋も綺麗だね、だね!まめに掃除してるの?」
「あー・・・。あ、あぁ、昨日たまたま掃除したんだよッ」
「へぇ〜」


レナはちょこんと適当なところに座る。いつもの洋服で、露出度の高い服にもどきどきしてしまう。これ男の本能。
俺もレナより一メートル半くらい離れて、座る。ここにはテレビがないからやけに静かだ。


「そういやさ、何で俺の家に来たんだ?クッキーの為か?」
「あ、えっと、その……」
「うん?」
「クッキーの為もなんだけど、あのね!あの……うんと……」


レナは言いずらそうにしている。もしかして用がなくて来たとか?
例えば、家に来たことなかったから行ってみたかったとか。


「今日は…その……聞きたい事があって……」
「何だよ?(聞きたい事?学校で言えない事か?」



その時―――





ドンッ








***



今の状況はとにかくやばい。視界が反転している。


「レ、レナ……?」
「あ、その……ごめんね圭一君……でもこのまま、このままで……」


顔が熱い。そして多分赤くなっているだろう。レナの顔も赤くて、
目がトロンとしていて……。今の状況を説明すると、俺はレナに押し倒されている。
間違えて押し倒したとかじゃなくて、本当に、押し倒すつまりでやったんだと思う。
レナの手が、俺の肩にある。力は結構強い。
俺が力ずくでやれば振り払えるだろうけど、それができない。
というかやれない。だって、だって、


「圭一君はレナの事どう思ってるのかな?……かな?」
「そ、そそれは!良い奴だと思っ「違う!」
「そういう意味じゃなくて!そうじゃなくて……お、女の子としてみて……」


レナの小さな手が、俺の頬に触れる。こそばゆくて、俺の身体がピクンと震えた。
熱い、熱い、もう何がなんだかよく分からない。
状況は分かるけど、頭が何も考えられなくなっていて。


「んっ……」


右頬に熱い息がかかって、そして―――キス。柔らかくて、熱くて。
次は左頬に。レナの顔は今も真っ赤で、息が荒い。


「レナは……圭一君の事……好き、なんだよ……?」


レナの唇が、俺の唇と重なりそうになった時、俺の意識は飛んだ。







     好きだと気づいて




(20060625)

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