Pkmn:R

□Prologue2:旅兵/虚ロナ過去
1ページ/11ページ

「ジェイドっ!お前は逃げろ!」

「貴方っ!」

「父さん!母さん!」

「早く...!うわああっ!!」

「父さんっ!!!」
























「...っ...!?」


金色の髪を揺らし、ジェイドは勢いよく夢から現実に引き戻された。重いまぶたが見開かれ、黒目が正気を失ったように揺れている。


「.......はぁ」


ぐったりとした表情で自身の金色の前髪を手で抑える。自室のベッドで眠っていたジェイドは、昨日5年ぶりに実家へ帰ってきたばかりだった。
彼の部屋の窓は雪国特有の2枚窓で、窓の外はしんしんと真っ白な雪が舞っていた。室内は半袖でいられるほど暖かいが、外は相当な寒さだろう。
ジェイドは寝巻きの上に黒いパーカーを羽織り、自室を出た。



1階のリビングに降りると、父親のジークがコーヒーを片手に机に置いてある新聞を読んでいた。
隣にはジークの相棒、ヨノワールがふよふよと新聞を腕を組んで見つめている。
ジークがジェイドに気づき、持っていたコーヒーを机に置いた。


「起きたのか」

「...ああ」


ジェイドが見つめているのは、ジークの失った左腕だった。6年前にこの家に強盗が入った際に、家族を庇って強盗に腕を切りつけられ切断された。
ジェイドは夢に出てきた光景に目を細める。



「あら、もう起きたの?長旅で疲れてるんだからもっと寝ていてもいいのに」



ジェイドの横から金色の長い髪の母親が、エプロン姿でキッチンから出てきた。母親のヒイラギはジェイド分のご飯を机に並べていく。


「と言ってももう昼だ、あまり寝過ぎると体が鈍るぞ」


ジークの言葉を聞きながら、ジェイドは黙々と食事をする。
ジークの横の席に座ったヒイラギが、思い出したように言った。




「そういえば、明日雪祭りなのよね」

「ああ、そうだったな。今年もジムリーダーの子が司会を務めるんだろう?」

「そうね、スズナちゃんがやるみたい。ジェイド、貴方も出たらいいのに。キッサキ1強い貴方が出るならスズナちゃんも喜ぶわ」

「...興味はない」




食事を終えたジェイドが吐き捨てる様に返事をした。ご馳走様と言って席を立ち、そのまま2階へ行く。
その後ろ姿をヒイラギが心配そうに見つめた。



「...やっぱり、まだ貴方の左腕の事を気にしてるのね。あの子」

「...」



ヒイラギの言葉にジークは目を伏せる。無くなった左肩を抑え、悲しみが入り交じった目がコーヒーカップを写していた。




ジェイドは寝巻きから着替え、外出する準備をする。
防寒服を身に纏い、部屋の隅にある鞘に収まった日本刀を腰に装備した。ショルダーバッグを背負い、部屋を後にして玄関に向かう。



「ジェイド」



スノーブーツを履くジェイドにヒイラギが後ろから声をかける。
履き終わるとジェイドは無言でヒイラギを見た。ヒイラギはジェイドに赤いマフラーを差し出す。



「ほら、これを巻いて行きなさい」

「...必要ない。今までこれが無くても平気だった」

「いいから。いくら旅慣れてる貴方でも、久しぶりの故郷の雪は堪えるわよ?」

「...」



そう言ってヒイラギはマフラーをジェイドの首に巻く。ジェイドは諦めたような表情でされるがままマフラーを巻かれた。



「うん、やっぱり似合うわよ。ジェイド」

「...赤は目立つ」

「文句言わない。それに暖かいでしょう?」



怪訝そうな目をヒイラギに向けるも、ヒイラギは全く気にしていない様子だ。ジェイドはヒイラギに背を向けて扉を開き、「行ってきます」と小さく呟く。


「行ってらっしゃい、ジェイド」



ヒイラギはにこやかな笑みで息子を見送った。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ