Pkmn:R
□No Data
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着替え終えた私は不貞腐れながらも部屋から出る。
隣の部屋は壁に近い場所にデスクと椅子が置かれていて、真っ黒なソファが2つある事務室だった。ソファには男が2人、女が1人で向かい合うように見慣れない3人が座っている。3人ともドアを開けた私に気がついてこちらを見ていた。そしてこの部屋の主であろう先程の水色髪の男が、デスクの横に立っている。
「紹介します。私と同じ幹部である者達です」
男がそう言うと、男と同じ白い団服の赤髪の女性が立ち上がった。
「私はアテナ。確か...オメガだったわね?女同士、仲良くしましょう」
アテナは赤い口紅の唇を綺麗に弧を描いた。名前を知られていることを不快に思い、水色髪の男を横目で睨む。男は1度目を合わせたが、全く気にしていないようで目を逸らした。
「俺はラムダだ。まあいきなり連れてこられて混乱してるだろうが、とりあえず顔だけでも覚えてくれや」
ラムダと言った男は紫髪のモヒカン頭で、刈り上げている後頭部を掻きながら気だるげに立ち上がった。猫背だが身長はアテナより高く、真っ黒な団服の胸には赤くRのマークが主張されている。
「.....ランスです」
帽子を被った緑髪の男が不機嫌そうな顔でソファに座ったままポツリと呟いた。ランスもラムダと同じ黒い団服を着ている。
何故同じ幹部であろう者なのに団服の色が違うのだろうかとぼんやり考えていると、ランスがこちらを冷たく睨んでいることに気がついた。その視線がなんとも不快で私は思わず眉間に皺を寄せて睨み返す。
「ここに居る者は全員、お前の上司となる人間です。お前が誰の配属になるかはまた別ですが、先程のように羽目を外すことはないようにしてください」
水色髪の男が私を見てそう忠告した。そういえばこの男の名前はなんだったかとまだ寝ぼけている脳を働かせて記憶を手繰り寄せる。ええと確か...。
「なぁアポロ、この嬢ちゃんを幹部にするって本当なのか?」
ラムダが私を見ながらそう口を開いた。そうだった、この男はアポロと言う名前だったか。そもそも他人の服を勝手に脱がす奴の名前など覚えたくもない。
「本当の事です。彼女は我々ロケット団の要であり、希望です。
二度と子供に邪魔をされぬように、より強い幹部を作る。
この組織の強力兵器になること、それがオメガに課せられた使命です」
アポロから発せられた言葉に度肝を抜いて顔を上げる。ランスが呆れたように息を吐いた。
「そんな餓鬼が、ですか。...アポロ、その子供は孤児院から連れ出したんでしょう?
無知な子供を幹部にするというのは、あまりに無謀だと思うのですが」
「しかし、我々だけではまだ足りない。
3年前にジムリーダーを務めていたサカキ様が、10歳の子供に敗北しロケット団は解散した。
それは覚えているでしょう?」
「えぇ、本当に馬鹿らしいくらい屈辱ですがね」
「トレーナーなりたての子供に敗北した。それは紛れもない事実。
あの子供がロケット団を解散されることが出来たのであれば、こちらもそれに対応するまで。もし同じことが起ころうものならば、我々もカードを用意する。
より強い兵器を...作り上げる、この地方のチャンピオンよりも強い者を」
アポロの口調は穏やかながらも、強い意志を宿した言葉ではっきりと述べた。アテナが意図を測りかねて疑問をぶつける。
「チャンピオンより強くするって言ったって、どうするのよ?各ジムにでも通わせてリーグチャンピオンにするまで鍛えるつもり?」
「...その案も考えましたが、それでは、公に出た際にリスクが大きい。もし本当にチャンピオンになれたとしても、それが悪であったなら...警察も黙ってませんからね」
「ジム通いはリスクが高すぎるでしょう。私もそれは妥当ではないと思うのですが」
アポロの意見にランスも賛同して言う。
なんだか私抜きで話を勧められている気がして不快に思った。こいつらの目的は、本当に私を幹部にすることなのか。本心なのかもよく分からないし、そもそも私抜きで進めるなら私がいないところでやってほしい。
「オメガにはまず特別なトレーニングを積み、強くなってもらいます。まあまずは我々を負かすのが目的ですね」
アポロの言葉にランスがムッと不機嫌そうに眉を顰める。アポロが机に向かい、引き出しから1つモンスターボールを取り出した。私の前に立ちそのモンスターボールを差し出す。
「その前に、オメガにはポケモンが必要です。流石に手持ちが1匹だけでは、いかなる状況に対応することは難しいでしょう。なのでもう1匹、我々から与えます」
アポロを睨みながら渋々ボールを掴む。ボールの開閉ボタンを押すと、中から黒いボディの猫型ポケモンが机に姿を現した。赤い目がオメガを見据え腕組をする。
「このポケモンはニューラです。主にジョウト地方に生息しており、悪と氷を合わせ持つ複合タイプのポケモンです。少々荒っぽい性格ですが...まあ手懐ければいい戦力になるでしょう」
ニューラは警戒した様子で私を見ていた。戦力が与えられるのは決して悪いことではない。
「オメガにはいずれ手持ちを多く持って貰います。次の任務では多くポケモンも取れる。
そこでオメガに合った編成してもらう。状況に合った戦い方も、学んでもらわなければ」
アポロがそう言いながら私からモンスターボールを手に取りニューラをしまう。ああ、本当にこいつらは私を組み込もうとしている。話を聞く度に気分が重くなる。期待されているのだろう。
「以上で話は終わりです。戻りなさい」
アポロの号令で幹部達がぞろぞろと退出して行く。ランスが去り際に振り向き、私を殺気の篭った目で睨みつけた。あの男は初めて見た時からどうもいけ好かない。
幹部達が退出し、部屋には私とアポロだけとなった。