泡沫人
□06
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――1996年1月17日 午前11時52分
鉛色の空の下、人気のない道が余計に寂しく映る。
これならば誰かに聞かれる心配はないと携帯を取り出す。
『――もしもし?』
電話に出た相手は良く知っている人だったけれど、掛けた相手と違うことに少々面食らった。
「――あれ、南那さん? これ久保田さんの携帯じゃ…」
『うん、そうだよ。久保田君は今お昼寝中。だから代わりにね』
そう言われれば、久保田の携帯に南那が出たことに合点がいく。
というよりも相変わらずだなと思う。
「ああ、なるほど――今何処っスか?」
『今? 事務所だけど。みんな出払って暇なんだよね〜』
「あ、じゃあ久保田さんと二人なんスね?」
『まぁ、二人といえばそうだけど? どうかしたの?』
俺の様子を察してか、南那が声音を落として聞いてくる。
「例の“W・A”ってのナガシの情報辿って手に入れたんですよ」
『それ本当!? 私の情報網でも引っかからなかったのに……デマとかじゃなくて?』
「いや、マジで。今から事務所行きますから待っててくださいね」
『分かったわ』
「――っ」
通話を終えてすぐのこと、額に冷たいモノを感じて空を見上げた。
とうとう耐え切れなくなった雨雲が泣きだしたのだ。
「雨だ……」
――背後に迫る影に気付くことなく
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