泡沫人
□08
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――……ルルルルルル
――プルルルルルルル
着信を告げる電話の音に深い眠りから意識が浮上する。
目を開ければ朝日が眩しく感じられた。
――久々に爆睡していたらしく
――ここが何処だか思い出すのに数秒かかった
「――あ――うるせーな。はいはい」
――思い出してから
――昨夜の出来事はタヌキやキツネに化かされたのではなく
――現実だったんだと知った
「――はい、もしもーし」
時任が受話器を取った。だが、とたんにその声音が不機嫌になっていく。
「……なんだ、あんたか。久保ちゃんに変わるっ――――俺が構うっ!! ――おい久保ちゃんっ。くーぼーちゃんっ!!」
電話の相手が何を話しているか私には分からないけれど、時任にとっては苦手な相手のようだった。
名を呼ばれている久保田はベランダに出て煙草を吹かしている。窓が閉まっている所為で時任の声に気付いていないらしい。
『おはよー、時任――誰?』
「おう。モグリ野郎からっ」
『ああ。貸して』
寝室から起きて来た南那は電話の相手を聞いて納得したようだった。
南那は時任から受話器を受け取ると、それを久保田の元へ運んでいく。
『久保ちゃん!』
「あ、悪い。何?」
『鵠さんから電話だって』
「ありがとう、南那。それと、おはよ」
『うん、おはよう。久保ちゃん』
受話器を手渡せられた久保田は腰を少し屈ませて南那の額にキスを落とす。
南那は嬉しそうにそれを受け入れていた。きっと、この行為は二人にとっては日常的なものなのだろう。
だが、見ている身としては小恥ずかしい気もする。
「――――はい、俺です。うん、どーも――――うん…いーですよ、何時に?」
――タヌキとキツネの正体は
――飄々としていて掴みどころのない不思議な男と
――ぶっきらぼうで無神経な俺様男
「……なんだ、お前起きてたの?」
『あっ、沙織ちゃんおはよー』
「……オハヨ…」
二人に挨拶を返す。南那は起きたばかりの所為かまだ目がとろんとしている。
――そして、唯一の紅一点の少女
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