泡沫人

□08
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「……? な、何よ?」



 時任のじーと向けてくる視線に気付き、我に返り声を掛けた。



「いや、子供いるのに腹出てねーなと思って」


「……だってまだ二ヵ月だもん。大きくなるのは生まれる数ヵ月前だよ」


「〜〜なにィ!? ガキって生まれるまでそんなに時間かかるのか!?」


「当然でしょ!? 十月十日って言うじゃない」


「知らねーよっ。誰も教えてくんねーもん、そんなこと。南那は知ってたか?」


『――』



 時任はこんな常識ですら知らないらしく、隣にいる南那に振り返る。
 南那はというと目をぱちぱちさせながら私のお腹と顔を交互に見遣っていた。



「どーしたの、お前ら?」



 電話を終えたらしい久保田がカップを手に私たちの居るソファに歩み寄ってきた。
 南那は久保田を振り仰いで、首を傾げている。



『ねぇ、久保ちゃん』


「ん、なに?」


『赤ちゃんってコウノトリが運んでくるじゃないの?』


「「え!?」」


「……」



 南那の一言に私と時任は声をハモらせてしまった。
 さすがの久保田も言葉を失くしてる様子だ。何か思案しながら、おずおずと口を開く。



「えっと、それ誰に教わったの?」


『パパだけど……』


「あー、成程ね」



 それを聞いた久保田は妙に納得していたようだけど、南那の方は難しい表情をしたままだ。
 南那にそう吹き込んだ父親もどうかと思うけど、時任以上に常識を知らないらしい。



『違うの?』


「さすがにそれは難しいかな」


『じゃあ、どうやって出来るの?』


「……知りたい?」


『うん!』



 何も知らない南那は好奇心に目を輝かせ、久保田を見上げている。
 無垢とはこういうことを言うのだろう。



「――分かった。じゃ、寝室に……」


「ストップ!! マジダメだって、久保ちゃん!!」


「そうよ! 久保田君も落ち着こう!!」



 南那の背を押して行こうとする久保田を二人で慌てて止めた。
 振り返る久保田は相変わらずで、表情から読み取ることは出来ない。



「冗談だよ」


「いや、冗談に取れねーから」


「そう?」



 冗談だという久保田だが、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか分からない。
 一人残された南那は膨れっ面を浮かべている。



『ねぇ、教えてくれないの?』


「また今度にしよ。ね?」


『うぅ、分かった』



 けれど、南那は渋々ながらも頷いた。
 きっと私と時任の必死さが伝わったのだろう。いや、そう思いたい。





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