光差す旅路の先

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「あッ、ちょいタンマ!! てめエ今カードすりかえただろ!?」


「てねェよ! 目のサッカクじゃねーのー?」


「じゃあ今捨てたカード見せてみろよッ」


「ケッ、ヤダね」


「〜〜このエロ河童ぁ!!」



 今日も西を目指しひた走るジープの上で悟空と悟浄はトランプをしていた。
 そして、この騒ぎの原因は悟浄のイカサマ疑惑の所為である。



『なんで仲良く出来ないのかな?』


「無理だろ」


「それは儚い夢ですよ、銀鈴」


『う〜〜』



 銀鈴の呟きに三蔵と共にキッパリと否定すれば、銀鈴は納得出来ないのか口を尖らせている。そんな幼い仕草はただ可愛いでしかない。


 いつもは悟空と悟浄の間に座っている銀鈴なのだが、今は三蔵の膝の上に座っている。
 何故こうなっているのかというと、事の発端は悟空と悟浄のどちらが銀鈴を隣に座らせるかと揉め出したのが始まりである。隣といってもいつもの間という訳ではなく、ジープの左右のどちらかということで。
 決着はトランプでつけることになったのだが、その間は三蔵が二人から銀鈴を没収したことで、このようになっている。


 ようは皆、銀鈴を独り占めしたいが周りがそうさせてくれないのである。



「――まぁ、僕も全力で阻止しますけどね」


『八戒、今なにか言った?』


「いええ、何でもありませんよ」



 銀鈴はいつもと眺めの違う景色に目を輝かせて外を眺めている。
 そんな銀鈴を三蔵は面倒臭そうにも、腕はしっかりと銀鈴を抱き留めていた。



「ああ!? やるか、チビ猿!!」


「やらいでか!!」


「降りてやれ、降りて!!」



 取っ組み合いに発展した二人に三蔵の怒声が上がる。



「今日もまたにぎやかですねぇ」


『平和ってことだよね?』


「あッバカ、危……」



 少し的外れなことを言っていたら、体勢を崩した悟空が運転席へと突っ込んで来てしまった。
 その拍子に手元が狂い、ハンドルがあらぬ方向へ。



「うお?」


「あら?」


『え?』



 土手を走っていた車輪が滑り、車体まで大きく傾く。



「!! どわあぁあ!!」


『きゃあぁぁ!!』





――ザボン





「ぷはあッ」


「だぁあ、冷てえッ」


「おいッ。てめーのせいだぞ、このバカ猿!!」


「何でだよ! 元はといえばお前が…」



 水面から顔を上げるなり責任を押し付け合う悟空と悟浄だったが、三蔵に再び頭を押さえ付けられて水の中に戻されてしまった。



「死ね! このまま死ね!!」


「「がぼぼごぽご」」


「銀鈴、早く川から上がりましょう。風邪を引いてしまいますよ――銀鈴?」



 三蔵から制裁を受けている二人は放って置いて、銀鈴に風邪を引かれては困ると思い声を掛けるが、銀鈴の姿がないことに気付く。



「銀鈴! どこです!」





――ザバン





『……』



 声を上げるなり、川から銀鈴が姿を現す。
 銀鈴は僕たち同様頭から水を被っており、全身ずぶ濡れになってしまっている。長い銀の髪を伝って水が零れ落ち、着ている着物も水を含んだせいで白肌が透けかけていた。



「……銀鈴」



 だが、それ以前に声を掛けることを憚られたのは、銀鈴がまとう殺気が尋常ではないからだ。先程までの楽しかった気分が一変、突然川に落とされたのだ、怒るのも当然である。



『悟空〜! 悟浄〜!』


「え、銀鈴!? うわぁ、マジごめん!」


「ち、ちょっと、待って! 落ち着け!」



 低く唸りながら近付く銀鈴に悟空と悟浄は身を竦ませる。普段の明るい琥珀の瞳が怒りに赤く染め上げられている。
 三蔵はすでに銀鈴の殺気を読み取って、二人の傍から退避していた。



「くすくす、くす」



 今にも三尾が出現するのではないかと思われた時、突如自分たちの背後から人の笑い声が聞こえて来た。
 振り返れば、籠いっぱいに入った洗濯物を持つ女性が目に僅かに涙を浮かべながら笑っていた。



「あ…ごめんなさい。あんまり楽しそうだから、つい……」


「俺をこいつらと一緒にしないでくれ」


「もしかして、洗濯にいらしたんですか?」


『え、そうなの? ごめんなさい、水汚しちゃった』



 我に返った銀鈴がくるっと女性の方へ振り返る。そこには、先程までの怒りに満ちた瞳はなく、いつも通りに戻っていた。
 川を汚してしまったことに対してか、銀鈴は申し訳なさそうな表情を浮かべている。耳と尻尾があったら確実に下がっているだろう。



「気にしないで。それより、そんなところに居ては風邪を引いちゃうわ」


『ありがとう!』



 川から上がった銀鈴を女性が持っていたタオルで優しく包まれた。
 されるがままの銀鈴は気持ち様さそうに笑みを向ける。



「……それより、どーすんだよ。替えの服までズブぬれじゃんか」



 悟浄が引き上げた鞄は当然ながら中身は水浸しになってしまっていた。
 このままではさすがに困るので、どこかで衣服などを乾かしてからでないと旅を続けられないなと考える。



「――あ。服を乾かすならウチの村まで来ませんか? 笑っちゃったお詫びに熱いお茶でも」



 そんな時、女性からのありがたい申し出を素直に受け取ることにした。




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