光差す旅路の先

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――ザク





 静寂の中、足を踏み締める音が妙に大きく耳に付く。
 八百鼡が三蔵一行抹殺に向かった酒場に足を向けていた。


 心配ではあるが、八百鼡の実力は認めている。
 なら、なぜ俺がここにわざわざ足を運んだかというと、数刻前に戻る。



「やぁ、王子様」


「――」


「あらあら、無視ですかぁ? つれないなぁ」


「何の用だ、你健一……」


「ひとつお願いというか頼み事がありまして――」


「――なに?」


「そんな怖い顔しないで下さいよ――なに、簡単なお仕事ですよ。三蔵一行にいる女の子、持ち帰ってくれませんかねェ。もちろん生きたまま」


「何を考えている」


「ん――研究者として貴重なサンプルが欲しいだけですよ」



 どうもあの胡散臭さが苦手だ。
 何を考えているかまるで分からない。いや、そもそもマッドサイエンティストの考えなど分かりたくもない。


 你の頼み事で動くということが癪に障るが、それでも牛魔王蘇生実験の携わっている以上無下にもできない。
 だから、三蔵一行の元に向かった八百鼡にこのことを伝えるべく赴いたのだ。





 酒場に到着し中の様子を窺おうとしたところに、それは目の隅に入った。
 太陽の光を受けて銀の髪が輝いているように見える。
 目的だった女の子――銀鈴は酒場の外で木の幹に身体を預けて眠っていた。その寝顔は見た目の小ささよりも幼く見える。
 このまま連れて帰るのは容易い。だが、それではあの男の掌で踊らされているようで良い気がしない。



「――おい」


『ん――』



 声を掛けるが起きる気配がない。
 今度は肩を揺らしてみる。すると、銀鈴は僅かだが身じろぎをする。



「おい、起きろ」


『ふにゃ――だれ?』


「三蔵一行は中にいるのか?」



 銀鈴のその問いには答えず、こちらが逆に聞き返す。
 だが、まだ意識がはっきりしないのか銀鈴は焦点の合わない目を向けたまま、えーっとなどと呟き考えているようだ。





――ドオン





 応えるのを待っていると、店の反対側から大きな爆音が響いてくる。
 八百鼡の爆薬の音だと瞬時に理解した。
 戦闘が行われているのだろうと、慌ててその場に向かおうとしているところに腕を掴まれた。掴まれた腕を見れば、さっきとは違い強い意志の宿った琥珀色の瞳が俺を見据えていた。



「――」


『……お願い、わたしも連れてって』



 まだ薬が抜け切れていないのだろう。俺の腕を掴む手も簡単に振り払うことができるほどの力だ。
 それど、そのあまりに真っ直ぐな視線に振り解けずにいた。



「――しっかり捕まっていろ」


『え? うわぁ!?』



 しばらく睨み合っていたがとうとう俺の方が折れた。いくら時間が経とうと銀鈴が引き下がらないと分かったからだ。
 俺は銀鈴を抱き上げると、そのまま地を蹴った。





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