光差す旅路の先

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 降り続ける雨音が微かに耳を支配する。
 妖怪の遺体から発せられる腐臭が鼻を掠める。
 だが、それよりも俺の思考を占めるのは目の前の知っているはずなのに知らない男のことだった。



「あ…ありがとうございます、六道様!!」


「――礼などいらん。これは俺の使命だ」





――“六道”――朱泱であることは間違いないのに





――何なんだこの邪悪なオーラは





――あの頃とはまるで別人の様……





 朱泱の変わり様に少なからず戸惑う自分がいた。



「よくわかんないけど片付けてくれてラッキーってカンジ?」


「なーんだ、寝よ寝よ」



 妖怪が倒れたことを見届けた悟空達は仕事が終わったとばかりに部屋に戻ろうとしていた。
 だが、それを遮ったのは悟浄の首元に錫杖を突き付ける朱泱――六道だった。



「!――おい」


「……何」


「貴様ら人間か?」


「また随分と不躾な質問ですね」


「俺の目はごまかせんぞ。貴様ら四人とも妖怪だな」


『!?』



 六道の口から出た妖怪という単語に銀鈴は驚いたように肩を震わせ、俺の後ろへさらに姿を隠した。



「――だったらどうだってゆーんだよッ!! 俺達は……」


「悟空」



 妖怪であるということを隠そうともしない悟空が八戒を押し退け前へ出る。
 だがそれが逆効果だったのか六道は札を取り出した。



「言っただろうが……全ての妖怪を俺が滅すると…!!」


「何だよコイツ、人の話も少しは聞けって……」


「――いいから、よけろ!」


「唵!」



 六道によって放たれた札を躱すべく悟空達は各々床を蹴った。しかし、室内という狭い空間の中では行動が制限されるため、上に跳んだ悟空は六道の近くに着地してしまったのだ。
 そんな悟空を六道が見逃す訳もなく、背後から錫杖を振り被った。



「げ、ヤバ……」


「悟空……!」


『悟空、後ろ!』



 八戒と銀鈴の悟空を呼ぶ声が木霊する。





――パシィ





「!?」


「朱泱――何してんだ、あんた」



 振り下ろされる寸前に錫杖を素手で止めてみせた。
 その時六道は俺の顔を認識すると、初めて人間らしい表情で驚いていた。



「お前は……」


「一応言っとくけど、こいつら殺してもバカが減るだけだぞ」


「何……知り合い?」


『――悟浄…』


「お前は後ろに下がっとけ」


『う、うん』



 俺が前に出たことで1人になった銀鈴が近くにいた悟浄の手を取る。
 不安そうな表情を浮かべる銀鈴だが、悟浄の言葉に素直に頷くと皆の後ろに下がった。



「く、くっくく……ははッ――そうか!! 噂には聞いていたが…まさかこんな所で出会そうとはな。“今代の三蔵法師には不逞の輩がいる”“下賤の民を従者に選んだ”と――」


「……」



 六道の驚いた顔も一瞬のことで突如高笑いを上げながら語り出した。



「『何している』だと? それはこっちの台詞だ“玄奘三蔵” 先代三蔵を殺めたのがそいつらの同族だということを忘れたはずはあるまい…!!」


「――人間変わるモンだな、朱泱。あんたの口からそんな言葉が聞けるとは」


「変わったんじゃねえ。朱泱は死んだんだよ。お前が寺を去った十年前のあの日から……!!」





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