光差す旅路の先

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「……よォ」


「あ…貴女は一体……?」



 六道が去り、突如現れた2人組みに敵かどうか計り兼ねていた。
 1人が壁に凭れた三蔵と悟浄の腕の中で意識を失っている悟空を順に見遣ると鼻で笑う。



「――ふん。こんなところで足止めをくらってる様じゃ大したことないな、お前らも」


「なッ、何者だてめえ!!」


「――おい、貴様!」



 悟浄が突っ掛かろうとしたところに、後ろに控えていたもう1人の髭を生やした初老の男性が声を張り上げた。



「口を慎め!! この御方こそ天界を司る五大菩薩が一人、慈愛と慈悲の象徴 観世音菩薩様にあらせられるぞ」


「か…観音様ァ!? コレが!!?」


「“自愛と淫猥の象徴”ってカンジなんですけど……」


「……いい度胸だ」



 にわかには信じがたく、思わず思ったことが口をついて出てしまった。
 だが、相手の怒りようからして本当なのかもしれない。



『相変わらずね、観世』


「銀鈴……」



 苦笑を浮かべる銀鈴が神である観世音菩薩に親しげに声を掛ける。
 菩薩が銀鈴を見詰めたまま動かないでいたが、突然銀鈴に飛び付き抱き締めた。



『うわぁ、ちょっと抱き付かないでよ!』


「このサイズのお前も可愛いなぁ」


『発言がオッサンじみてんのよ』


 菩薩の胸の中で揉まれている銀鈴は嫌々と言ってはいるものの、どこか嬉しそうであった。

 声を掛けるべきか悩んだが、このまま分からないこと放って置くことも出来ない。



「銀鈴……いえ、貴女は誰ですか?」


『私も“銀鈴”なんだけどね……私のこと覚えてない?』


「え?」



 まず自分の頭を整理する必要もあったので、銀鈴の身体を借りている者に訊ねる。だが、返ってきた答えは己も“銀鈴”であるということのみ。
 銀鈴は瞳に哀しげな色を浮かべながら僕を見詰めて問うが、僕にはその意味が分からない。



「覚えてるワケねーだろ」


『……そうよね…残念』



 聞き返そうとする前に即座に答えたのは菩薩だった。
 銀鈴はその答えを始めから分かっていたようだが、それでも寂しそうに瞼を伏せる。

 僕達には分からない話が2人の間で交わされていく。



「それより、封印が解けたのか」


『いいえ。札使いとの戦いで封印に亀裂が入り、悟空の妖力に当てられただけよ。それに、今の私じゃ悟空は止められなかったでしょう』


「――そうか」



 銀鈴を見る菩薩の表情に一瞬影が過った。だが、それに反して銀鈴は笑みを向ける。



『そんな暗い顔しないで。これは当然の報いよ。でも後悔はないわ。こうして、再び会えたのだから』



 そう言って視線の先を僕たちの方に移す。その瞳に移したのは僕達なのか、悟空なのか知りようもない。
 すぐに菩薩に向き直る銀鈴は、チョーカーに付けられた鈴を弄ぶ。



『――そろそろ時間ね』


「消えるのか」


『眠るだけよ。封印が解かれた時また会いましょう――二郎神、観世のことよろしくね』


「承知いたしました、銀鈴殿」


「余計なお世話だ!」



 二郎神と呼ばれた男が頭を下げ、菩薩が声を張り上げるのを見届けると銀鈴は笑みを一つ零し、意識を手放すと菩薩に倒れ込んだ。



「銀鈴は!?」


「心配すんな。直に目を覚ます、お前らの知ってる銀鈴がな」


「――そうですか」



 その言葉を聞いて一先ずはホッと胸を撫で下ろした。
 だが、安心出来る訳ではないのだ。まだ分からないことだらけなのだから。



「あの、先程のとこですが――」


「ん?」


「先刻、悟空の妖力制御をつけ直したのは……!?」


「そう……そのチビの金鈷は一般化されてる制御装置とは訳が違う」





――通常の物質でなく強大な神通力を固形化した





――“神”のみが施すことのできる特殊な金鈷……





「つまり孫悟空の力はそれだけ桁外れだってことさ……まだ天界にいた頃からな」


「――え…?」





――天界に…?





――悟空が?





 今の話に耳を疑った。悟空が天界にいたことがあるという話を聞いた事がなかったからだ。
 記憶のない悟空は当然ながら天界にいたということを知らないのだろう。





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