光差す旅路の先

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『ん……』



 目を覚めせばベッドの上に横になっていた。
 起き上がろうとするがうまく身体に力が入らない。それに何となく気だるくも感じる。



『わたしどうしちゃったんだろ…?』



 頭の中も靄が掛ったようにぐるぐるして気持ち悪かった。
 何よりも自分の身体が自分のものではないように重いのだ。

 カツカツと足音が部屋に近づいてくる。
 扉を隔てて八戒と悟浄の話し声が聞こえてきた。



「――悟浄。三蔵は?」


「んー?」


「はぁ、行かせたんですね」


「ま、俺に止める義理もねーし。それよか、俺が見逃すなんざ想定内なんだろ? やっさしーじゃ
ねーの」


「茶化さないで下さい」


「悪りィ悪りィ。でもま、自分の落とし前は自分でつけなきゃ気が済まねぇだろ」


「全く貴方って人は……」



 呆れた声音の溜息と共に部屋の扉が開かれた。



「おッ! 目が覚めたか、銀鈴」


『――悟浄…八戒……』



 いつものようにヘラっと笑う悟浄と優しい笑みを浮かべた八戒が部屋に入ってくる。



「気分はどうです?」


『んー、大丈夫……』


「無理すんなって。まだ寝てろ」


『――うん』



 まだ本調子じゃないわたしを見透かしたように悟浄が制した。そして、大きくて暖かな手がわたしの頭を撫でる。
 ベッドの傍らの丸椅子に腰掛けながら八戒が訊ねてくる。



「銀鈴、少し話をしてもいいですか?」


『うん、なに?』


「六道との戦いの最中、自分の身に何が起きたのか覚えていますか?」


『えっと――確か三蔵が怪我をして、それから悟空が暴走しちゃったんだよね……そのあと、急に目の前が真っ白になっちゃって――』





――そうだ、そのときもう1人もわたしっていう人が現れて





――あれは夢?





――それとも……





「銀鈴は――悟空の…斎天大聖の強大な妖力に当てられて気を失ってしまったんですよ」



八戒の一瞬の間が気になったが聞き返すことはしなかった。
 あれが夢なのかそうじゃないのか自分で判断できないのと、何よりどう説明していいか分からないからだ。



「お前の小っさい身体が耐えられなかったんだろ」


『もぉ、そうやって子供扱いするんだから!』



 ぷぅと頬を膨らませて見せるが、悟浄は笑うだけで訂正してくれなかった。



「またそうやって銀鈴をいじめて。嫌われても知りませんよ」


『意地悪すると嫌いになっちゃうもんね』


「へいへい、俺が悪ぅございました」


「分かればよろしい」


『よろしい!』



 心無しか重たかった空気が晴れた気がした。
 弄られ役を買った悟浄に内心感謝しているが、口には出さないでおく。



『そういえば三蔵と悟空はどうしたの?』


「あのバカ猿なら向こうの部屋で飯食ってんぞっ」


「あの落ち込みようが嘘のような食べっぷりですよ」


『悟空らしいね』



 2人の話でいつもの悟空に戻ったんだと安心できた。あの妖怪化した悟空は少し怖い気がしたから。
 でも、一番気掛かりなのは三蔵のことだった。あんなにすごい怪我を負っていたし、何より扉の外から聞こえた八戒と悟浄の会話のこともあった。



『三蔵は……?』


「……それは」



 笑みを浮かべていた八戒の顔に陰が差す。言いにくそうに口ごもってしまった。



「行っちまったよ」


「悟浄……!!」


「隠しておくことでもないだろ? どうせ後には分かっちまうことだしな」


「そうかも知れませんけど……」



 きっと八戒はわたしに心配を掛けたくなかったんだろう。そして、三蔵のことを教えてくれた悟浄もわたしのことを思ってのこと。
 2人ともわたしのことを思っての優しさだってことはちゃんと理解できている。



『大丈夫だよ、八戒。わたし三蔵のこと信じてるから』


「……強いですね」


『そんなことないと思うけど?……でも、三蔵の怪我は大丈夫なの?』


「あいつはそんな簡単くたばったりしねぇよ」


「ちゃんと傷も塞ぎましたし、輸血もしてあるので大丈夫ですよ。ただ無茶をしなければいいのですが……」


『じゃ、迎えに行ってあげないとね!』


「えぇ、そうですね」


「ったく、しょうがねーな」



みんなそれぞれの形で三蔵のことを心配してる。





――だからどうか無事でいて





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