光差す旅路の先
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「っだ〜〜、疲れた」
「元はと言えば、貴方達がいけないんですよ、悟浄」
「俺は猿に付き合って遊んでやっただけだっつーの」
「掃除の最中に遊ぶ人がいますか、普通。おかげで僕まで三蔵の部屋の修繕を手伝う羽目になったじゃないですか」
八戒が隣で呆れたように溜息と共に言葉を吐き出す。
俺は聞こえない振りをして煙草に火を点けた。
長安の慶雲院を後にした帰り道。
ふと空を仰ぎ見れば、青空に太陽と対に浮かぶ白く薄い月。
「……月ってよ、昼間でも見えたんだな」
「え?」
「ハッ、当たり前か」
「……そんな当たり前の事すら、僕ら忘れていたのかもしれませんね」
深緑色の瞳が悟浄の視線を追うように空へと向けられる。
しばらく、その月を拝んでいると八戒が何かを思い出したようにワントーン声を落として話し始めた。
「――そういえば、先日村の人に聞いた噂なんですが、この辺り出るらしいんですよ」
「は? 何が?」
「――幽霊」
「いや、ないない。幽霊が出るなんてただの噂だろ。ってか、そんなの出て堪るかってんだよ」
何を言い出すかと思えば、俺の苦手なネタを出してきやがった。
きっと今回のことに対する腹いせなんだろう。
「それがそうでもないみたいなんですよ。話によれば、1週間ぐらい前に道に迷ってしまった村人が森を彷徨っていると、木の陰から白い光が、ぼうっと突然現れたんです」
――ゴクッ
「目を凝らしてみれば、幼い少女がじっと見つめているんです。そして、ゆっくりと――」
背中を這うような感覚に身震いをする。
「って、聞いてます? 悟浄」
「……」
「悟浄、どうしたんです?」
「……なぁ、八戒。アレ、何に見える?」
震えながら指差す方向に目を向ければ、木立の陰に見える白いもの。
目を細めよく見てみると、全身真っ白な少女がこちら見ていた。
八戒も思わず唾を飲み込んだ。
「お、おい。やべぇよ、八戒。俺、見えっちまった」
「――あれ? 悟浄、貴方霊感ゼロの筈じゃ……」
そう言いかけた時、視線の先の少女の身体グラッと傾いたかと思うと、そのまま地面へと倒れ込んでしまった。
「! 悟浄、あれは幽霊なんかじゃありません!」
八戒はそれだけ言うと、森の中へと駆けて行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待てって!」
我に返ると、慌てて八戒の後を追っていった。
木立を掻き分けながら奥へと進んで行くと、八戒の姿が見えた。
八戒の腕には少女が抱き抱えられている。
「八戒?」
「悟浄、見てください」
――これは?
すべてが白いのだ。
纏っている着物が白いだけではない。日を浴びたことがないのかと思ってしまうほど、肌が白い。そして、髪も。白色というよりも銀色をしている。
「――生きてんのか?」
「えぇ。しかし、だいぶ衰弱しているみたいです。息も浅いですし、脈も弱い」
よくよく見れば、着物から覗く手足は痩せ細っており、顔面蒼白で、見ていられないほど痛々しかった。
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