光差す旅路の先

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「「「「しょっ」」」」


 グーが三人、チョキが一人。
 現在悟空の8連敗中。
 じゃんけんで負けた者が皆の荷物を持つという賭けの結果がこれである。



「おいっ、どこまで歩くんだよッ!」


「こんな岩場じゃ、ジープ通れませんからねェ……」



 もう何時間も4人分の荷物を持ち、険しい石林を登っている悟空が音を上げている。
 けれど、八戒が言う通り周りは岩に囲まれ、ジープが通れるだけの道幅がないのだ。



『悟空、荷物持つの手伝うよ?』


「マジで! サンキューな」


「おっと、ダメだぜ。銀鈴は自分の持ってんだろ? 第一じゃんけんが弱いコイツが悪い」



 そんな悟空に手を貸そうとしたら横から悟浄に止められてしまった。
 確かに自分の分を持ってはいるが、尻尾を使えばもう一人分ぐらいの荷物を持つことは出来ると思ったのだが、ダメなようだ。



「そんなことねーって! みんながなんかイカサマしてんだろ!」


『――悟空、もしかして気付いてないの?』


「へ? なにが?」


『だから、悟空が――』


「あ――何でもない。銀鈴、疲れてるようなら俺がお姫様抱っこでもしてやろうか?」


『え、悟浄?』



 突如悟浄に腕を引かれ、悟空と離されてしまった。
 顔を寄せてきた悟浄の赤い髪が頬に掛りくすぐったい。



「それ以上はダメだぜ」


『なんで? 悟空、初めにチョキ出す癖気付いてないよ』


「それがいーの」


『そうかな? 悟空がかわいそうだよ』


「銀鈴は優しいですから。それに代わって悟浄は意地悪ですよねェ」


「それは、お前もだろ。って、なんで銀鈴を持っていってやがんだよ」



 気付いたら今度は八戒の方へ引き寄せられていた。
 八戒が悟浄に向ける笑顔が少し怖いと思ったのは気のせいかな。



「悪い虫が付いたら困りますから」


「そんな目で俺を見てたのかよッ!」


「お前等いつまでチンタラ歩いているつもりだ。早く来い」


『は〜い』



 話して歩いているうちに、三蔵は一人先に進んでいた。
 立ち止まり、こちらを振り返っている三蔵の元に小走りで駆け寄る。



「お前さぁ――っ。ジープ以外には変身できねーのかよ、白竜!!」


『それはちょっと無理があると思うよ』


「先生――動物が動物虐待してまーす」



 三蔵の袂を掴んで歩いていれば、最後尾の悟空がとうとうジープに八つ当たりを始めてしまった。



「……このままだと山越える前に日が暮れちまうな」


『こんなところでの野宿はイヤ!』


「それもそうですね――では、一晩の宿をお借りしますか」



 八戒の視線の先にはこの石林には似つかわしくないほど大きいな寺院が構えていた。
 仰ぎ見なければならないほどなのだ。



『大っきい〜』


「げ、ごたいそーな寺だな、オイ」


「すみませ――ん」


「何か用か!?」



 八戒の呼び掛けに中から坊主が姿を現した。



「我々は旅の者ですが、今夜だけでもこちらに泊めて頂けませんか?」



「――ふん、ここは神聖なる寺院である故、素性の知れぬ者を招き入れる訳にはいかん!」



 だが、坊主から返ってきた言葉は冷たいものだった。





――あのお坊さん苦手かも





 三蔵の袂を掴んだまま半歩後ろに身を隠した。



「クソッ、これだから俺は坊主ってヤツが嫌いなんだよ!!」


「へー、初耳」


『ねぇ、三蔵。わたしたち歓迎されてないみたいだよ』


「まあ、こういった格式の高い寺院は余所者を嫌うからな」



 それに加え、こんなにも共通点のない人達が突然訪問して来たら警戒されるのも仕方のないことかもしれない。



「困りましたねェ」


「なー、腹減ったってば。三蔵っっ!!」


「さ…三蔵だと?」



 悟空が発した“三蔵”の一言に坊主は突如顔色を変え、柵に身を乗り出しながら三蔵を凝視している。



「……まさか“玄奘三蔵法師”…!?」


「何!?」


「しっ…失礼致しました!! 今すぐお通ししますッ!!」


「へ?」


「……」


『――やっぱり苦手かも』



 三蔵だと分かるや否や坊主たちは手の平を返すように態度を変えたのだった。




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