文章

□連日睡眠不足
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「クダリ。何故こんな事をするのです」
「なぜって…。愛故に?」

疑問形で返ってきた返事に説得力など皆無で、意味がわからないと逆に脱力してしまいます。
深夜のベッドの中。
兄弟兼恋人と二人きり。
少しお酒も入って心地好い気分。
私は明日も仕事なのでこの気分がいいまま眠ってしまいたかったのですが。
どうやら我が弟はそうではないようで、私に覆いかぶさったまま下りる気配をまったくみせず現在進行形で私の頭を悩ませています。
こんな遅い時間から、激しい運動をする気などさらさらないわけでありまして。

「どいてくださいまし」
「嫌!」

首をぶんぶん横に振るクダリはちょっと必死に見えて、思わず可愛いなんて思ってしまいます。
ただそれを口に出したらそのまま懇願されて流されてしまうと思うので言いはしませんが。

「私、もう眠いんです」

少しうとうとしながら言うとクダリは若干目を潤ませました。
ああ、私はクダリに泣かれるのは嫌なのです。
必ずしも私が悪く無くても罪悪感が沸いて来ますのでね。
それにクダリが泣いたら私が折れるのは確実になってしまいます。

「ノボリ、ぼくのこと嫌い?」
「そんなことは断じてありません。ただ、眠いのと明日も仕事なので…」

申し訳なさげに言うとクダリも少し考え込んで視線を反らしました。
もしかしたら、このままいけば今日は無事に眠れるかも知れません!
期待しつつクダリを見つめてみますが上目遣いにこちらを見詰め、まだ諦めきれない様子でいます。
身体を動かさない様子からすれば気持ちは代わっていないのでしょうね。
こうしている間にも時間は過ぎていき貴重な睡眠時間が削られていくのだと思うと、知らず知らずの内に溜息が漏れました。

「…少しだけだから。ね?」
「ねじゃありません。第一にポケモンのことを考えなさい」

なんとか上からどかそうと試みますが思った以上に気持ちは強固なようで全く動きません。
思わず溜息が漏れました。
これに付き合わされるのは私だけではないのです。
ポケモン達はもうボールの中で休んでいるはず。
なのにそれを無理矢理起こして明日の就業に支障をきたす行為をするのはいかがなものでしょうか。
そうでなければいくらだって相手をして差し上げるのに。
もうこのまま寝てしまおうかと思っていると、クダリが急に顔を近づけて来ました。
ああ、今日こそはその手には乗りません!
私はもう寝るのです!
顔も見えないくらい近くに来ると、クダリは私の耳に息を吹き掛けるかの様に囁きました。

「ねぇ、ノボリ。しよう?」
「…っ」

身を固くして構えていたのに、クダリはずるい。
普段とは違う一段トーンの低い声。
笑声でありながら吐息を含んだ掠れた声のせいで思わず息が詰まりました。
そんな私の様子を見て耳元でクダリが笑うのでさらに羞恥が込み上げてきます。

「ふふっ。ノボリも好きだよね?」
「そうですが、別に今で無くても…」
「じゃあいつならしてくれるの。仕事中にお願いしてもいい?ぼく、大歓迎なんだけど」
「それは駄目です!」
「なら、今しよう」

本当にクダリはずるい。
断れない条件を提示してくるなど、普段の言動からはきっと他人は考えられないでしょう。
溜息とも吐息ともつかない息を吐いて、もう諦めました。
このままでは私が憤死してしまいます。

「…しょうがないですね」
「やった!ノボリ大好き!」

ぎゅっと抱き着いてきたクダリは先程とは打って変わってあどけない笑顔で、今日もしてやられてしまったと我ながら呆れてしまいます。
今日もシャンデラ達に謝らなければなりませんね。

「じゃあ行こう、ノボリ!」
「ええ、戸締まりはしっかりして下さいまし」
「うん!」

モンスターボールだけを持って飛び出していくクダリを見て、微笑ましく思えて口元が緩みます。
いつの間にか眠気も去ったようですし、折角なので私も楽しみたいと思います。
私が全力を出せるのはクダリしかいませんし、何より私も好きですから。

「シャンデラ。夜分に申し訳ないのですが、少々私の我が儘に付き合っていただけませんか」

ボールに向かって言えばカタカタと振るえ、期待に答えて下さいます。

「ノボリ!はやくはやく!」
「はいはい。近所迷惑になりますよ」

本当に楽しそうに言うのでこちらももう最後まで付き合うことに致しましょう。
私の睡眠不足とポケモン達の疲労の対価はクダリに明日払っていただきます。
処理しなければならない書類を何点か思い浮かべながら、ポケモンバトルをするべく速足にクダリの後を追うのでした。
願わくば明日こそはぐっすり眠れますように!



END


本気出せるのは片割れだけ!
みたいな双子が好きです。
ノボリさんの言動がちょっと酷いのはきっとお酒が入ってるせいです(笑)




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