文章

□慢性依存性
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「申し訳ございません。大変お待たせ致しました。カミツレ様」
「珍しいわね。ノボリくんが遅れるなんて」

特に怒った様子もなくいうカミツレ様は、待ち合わせのカフェでカフェオレを飲みながらこちらを見上げるようにしておっしゃいました。
今日は久々に三人で飲みに行くことになっていたのですが、まさかダブルトレインの車両に不備が見つかるなんてついていないとしか言いようがございません。
ギアステーションが遠くに見える窓を見つめますが、クダリは当分来る気配もなく、建物から出てくるのは仕事が終わって帰宅する従業員と勤め先への交通手段としてトレインと使用しているサラリーマンの姿だけです。
そのことを知らないカミツレ様はあたりを目だけで見回すと不思議そうに問いました。

「クダリくんはどうしたの?」
「車両点検中でございます」
「あら、あなたもいかなくて良かったの?」

ちょっと驚いたように言うカミツレ様は普段のモデルの表情とは違い、とても自然な表情でいらっしゃいます。
確かに私たちはいつでも一緒におりますから、一人だけというのが珍しいのかもしれませんね。

私たちの心配までしていただいて、カミツレ様には不本意かもしれませんがカミツレ様は私にとってまるで姉のような存在でございます。
ほぼ家族ぐるみと言っても過言ではない付き合いをしてきましたが、最近は仕事のためなかなか会うこともなくなっていたので少し懐かしさすら感じます。
また今回の約束が終わって別れてしまえばしばらく会えなくなってしまうのでしょうね。
そう思うと少し寂しく思えて、それを紛らわせるためにも早くクダリがきて欲しいと思いまた窓へと視線を投げました。

「私もその予定だったのですが、先に行けとクダリが気を使ってくださいましてね。気にはしつつもお言葉に甘えて先にこちらにまいりました」
「クダリくんも相変わらずね。言動の割にしっかりしてるんだから」
「ええ、クダリにはいつも頼ってばかりです。兄としてもっとしっかりしなければ」
「ほんと、ノボリくんも 相変わらずね」

ふふっと口元に笑みを浮かべて笑う姿は昔からお変わりなく、美しくも屈託のないこの笑顔が人々を魅了するのだなとふとそんなことを思いました。
カフェに着いたばかりなのに窓の方ばかり気にしている私を見てカミツレ様はカップを置いて軽く口元に手を添え、先ほどよりも大きく笑い声を立てました。

「ほんとにあなたたち兄弟はべったりよね。彼女とかつくらないの?モテるでしょ。そのルックスとその仕事なんだから」

カミツレ様はカップのふちを指でなぞりながら、少しからかうように身を乗り出してこちらを伺っています。
少し戸惑ってしまいますが、なんて言ったらいいのでしょうね。
正直にいうと、多分そういう気分ではないのです。

「私に彼女なんてまだ早いんですよ。クダリはどうかわかりませんけれど」
「あら、意外と冷たいのね。クダリくんいきなり彼女作って出て行っちゃうかもしれないわよ」
「それはそれでいいのではないですかね。そろそろクダリにも兄離れして頂かないと」
「ふーん」

なんでしょうそのふくみのある笑い方は。
そういう顔をしていらっしゃる時は大抵ろくなことがありません。
主に私に。
じとっとカミツレ様を見つめると、まだニコニコと笑っていらっしゃいます。

「そういうカミツレ様はどうなのですか?モデルさんには素敵な方も大層いらっしゃるのでしょう?」
「うーん。みんな上辺だけでしょ。しかも自分はカッコイイ!とか思っちゃってるから、なんかねー」
「・・・そういうものですか」

女性とは難しい生き物だと常々思っていましたが、どんなに顔が良くてもやっぱりそういう仲になる気にはならないのですね。
いつの間にかに真顔に戻ったカミツレ様は窓の方に視線を移してボソッと、聞き逃してしまいそうなくらい小さな声で言いました。

「まあ、クダリくんみたいな人なら付き合いたいかな」
「・・・えっ」
「まあ、冗談だけどね。あら、なに本気で信じてるのよ?逆にこっちがビックリしちゃうじゃない!」
「それも、そうですね。私も驚いてしまいました」

またカップを手にとって口元を隠すようにそれを顔の前まで持ち上げた姿勢で、カミツレ様はまたつぶやくように言います。

「でもクダリくんモテるのよ。この間も可愛い女の子に告白されてたし。振ったみたいだけど」
「・・・そうなんですか。クダリはそういうことを私には話さないので知りませんでした」

カミツレ様はカフェオレを一口飲んでテーブルに置くと、優雅に足を組んで窓からこちらへ視線を戻しました。
目が合ったカミツレ様はニコニコした何時もの表情に戻っていて、雰囲気がいつもと同じだと安心いたしました。
先ほどの話し方が全部が全部が冗談ではないような気がして、胸の奥が締め付けられるような心地がいたします。
そんな私の様子を知らずか、知らないふりをしてカミツレ様はまた冗談目かして楽しげに言いました。

「ほんとにクダリくんいい子よね。気配りできるししっかりしてるし。笑顔が素敵だから周りにも溶け込んじゃう。多趣味だからいろんな話題についていけるし。だからかしらモテるのよね。ちょっと!ノボリくんの弟って完璧超人じゃない!」
「そう言われるとそういう気がしてきますが、そんなことはないのですよ。休みの日はいつもゴロゴロしてますし、暇さえあればポケモンと遊んでますしね。仕事はやれば出来るのにあえてやらないみたいですし。なのに提出期限があるものですとちゃんと計画を立ててその通りに終わらせたりして。それを逐一報告にくるクダリはまた頼りになるんですけどね!」
「結局のろけじゃない!ほんとに仲良いんだから」

テーブルのしたで足を蹴る真似をしながら二人して声をあげて笑います。
あまりうるさくしてはお店に迷惑でしょうが、夜のこの時間にカフェにいるのは私たちだけなので多めに見ていただきたいものです。
ああ、久々にこんなに人と話した気がしますね。
やはりカミツレ様といるのは気が楽で、本当に楽しい気分にさせてくださいます。
ふと窓の方を見やると、息を切らして走ってくるクダリの姿が見えました。
そんなに急がなくても大丈夫ですのに。
カミツレ様も同じようなことを考えていたのか、窓の外を見ながら微笑んでおりました。

「じゃあクダリくんも来たことだし、行きましょうか」
「そうですね。思ったより早く点検が終わったようで良かったです」

あと少しでここにクダリが入ってくるというところで私たちは席を立ちました。
カフェオレ代は私が持つのが暗黙の了解らしく、気がついた時にはカミツレ様はすでに出口へと向かっていらっしゃいます。
仕方なしにレジの方へ歩いていくと、後ろから囁くようなカミツレ様の声が聞こえてきて思わず息をつまらせました。
私は振り向きもせず体を強張らせたままその囁きを聞いておりました。

「仲がいいのはいいことだけど、あなたも弟ばなれしなくちゃだめよ。ノボリ。あなたのためにも、クダリのためにも、ね?」

きっとカミツレ様はもう外に出てしまっていることでしょう。
たった五百円を出すのに手間取ってしまい、クダリに遅いと言われるのはあともう少し先のことでございます。
カミツレ様や他の方に何と言われ様とも、クダリからそんな小言を言われるのも兄弟の特権だと思わせていただきたいのです。
だからまだ、クダリにも私にも彼女など、この楽しい状況が変わってしまうなどとは考えたくもないのでございます。

END

半実話ネタ?
クダリを取られるのが嫌なのか、カミツレさん取られるのが嫌なのか分からないノボリさん。
カミツレさんのがサブマスより年上だといいなー。

おまけ
「ほんとに二人とも仲良過ぎよね。もう結婚しちゃいなさいよ」
「無理ですよ。私たちもう戸籍上家族でしすしね」
「なんだか二人だけずるい、悔しいわ。ノボリくん、クダリくん、どっちか私と結婚しましょう!大丈夫私が養ってあげるから」
「ファンの人に殺されそう。ぼくは遠慮しとく」
「同感です」
「それに、ぼくにはノボリいる」
「もう、そうやって二人の世界を作ろうとするんだから!そうはさせないわ!」
「カミツレ様!危ないですよ、おやめくださーーーー」

END





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