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「もう、食えない」
「おかみさんに気に入られたな。今晩も大量に準備してくれるはずだから、期待しとけよ」
「....はい」

じいさんちにはベッドがひとつしかないからおかみさんに頼んでしばらく宿屋に泊まらせてもらおうと箒星へ戻ってきたが、残念ながら部屋は空いていないらしい。遅い朝食と早い昼食をいっぺんに済ませながら話をしてみたが、どうやらしばらくは俺の借家で過ごしてもらう他ないようだ。
店の掃除を手伝わされていたテッドはルークが店に来ると驚きつつも、俺たちが席に着いた瞬間からルークが俺にしたのとは比べ物にならないくらいの質問攻撃を浴びせた。その質問にルークはほぼ答えられず、あーだかうーだか言いながら、最終的に俺に助けを求めてくるのだからどうにかして欲しい。
しかもルークは見目がいい上に話が聞き上手なせいでおかみさんにえらく気に入られ、悪いことではないんだが、予想以上に大量の食事を取る羽目になってしまった。
やっと数時間ぶりに部屋に戻ってこられたと肩の力を抜くが、ラピードは窓際の定位置に丸くなると自分は関係ないとでも言うような態度で大きくあくびをした。
まったく相棒も自由犬だこった。ラピードを横目に見ながら軽く視線をずらせば、ルークは所在なさげに苦しい腹を押さえながらドアの入り口で突っ立っている。

「どうした。入って来いよ」
「おじゃまします」

何をするにも遠慮をする癖でもあるのだろうか。それともそんなに人のことが信用できないか。もっと堂々としていても罰は当たらないというのに。備え付けの椅子に座れば、ルークもその向かいに座り緊張した面持ちでこちらを伺うように見ている。
まあ、いきなり知らない奴と共同生活をしろといわれても誰だって無理な話だろう。それに、先ほどの問答を顧みればルークには不振というか合点がいかないことが多くある。それにテッドやじいさんが言っていた、ルークが現れたときの状況も良く分からない。宇宙人だなんてことはないとは思うが、今後の目的だけでも聞いておかなければいつまでこの生活が続くのかも見当がつかない。
ちらっとルークの様子を盗み見れば、この部屋がそんなに目新しいのかきょろきょろとあたりを見回している。ふっとラピードに目を留めればぱたぱたと揺れる尻尾に目を輝かせているのだから、存外、見た目よりも実年齢は幼いのかもしれない。
見られていることに気がつたルークは少し気まずそうに口の端を引きつらせてこちらを見る。

「取って食やしねえからそんな緊張すんなって」

こちらの一挙一動にびくびくする姿は小動物を連想させてこっちが悪いことをしている気になるのだから居心地が悪い。そんな俺の雰囲気でも汲み取っているのだろうか。そんなに怯えなくとも外に摘み出したりはしないというのに。

「あんたも大変だな。じいさんの戯言なんて本気にしなくたっていいのに」

苦笑混じりにやわらかい声音で言ってやればほっとしたように顔のこわばりが取れるのだから、ルークももっと人を疑ったほうがいいのではないだろうか。

「いいんだ。あんまり人に頼まれごとされたことってなくてさ。なんだか嬉しいって言うか、何て言えばいいか分かんないけど」

照れたように頭をかきながら言うルークにうそ偽りはまったく感じられなくて、エステルに出会ったときの様な新鮮な驚きが思い出された。

「そうか。まあ、ルークがそう言うんならいいんだけどよ。用事があるんだろ?」
「...そうなんだと思う」

ぼそぼそと呟くように言った言葉はなんとなくしか聞き取ることは出来なかったがどうやら面倒そうな事情がありそうだ。やれやれと思いながらも、今までの言動からその事情を問いただしても正確な答えは得られないだろうし、もし聞き出してしまったとしたらきっと最後までそれに付き合うはめになるのだろうから聞かないほうが無難だろう。一瞬のうちに逡巡してルークを見れば、また困ったような顔をしながらやっぱり自分の手を見つめていた。

「まあ、じいさんの言ってたとおり、いつでも止めていいんだから好きなくらいここにいればいいさ」

安心させるように微笑んでやればルークははにかんだように笑う。それがなんだか面白くて、こいつはずっと笑ってればいいのになんて思ってしまうのだから俺の感覚もどうやら可笑しいのかもしれない。
ただ、じいさんの家で横になって真っ青に冷たくなっている姿はもう見たくないとだけは心から思った。




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