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「ルーク!こっちも頼むよ!」
「はいっ」

木材を持って走り回るルークの姿は、もうすっかり下町の一員といっても過言ではない程馴染んでいて、ここに来てからたった1週間しか立っていないというのに下町の包容力というか、順応能力にはまったく低頭してしまう。温かみのある人が多いのだろうが、当のルークの物憂げな表情や積極的な仕事への姿勢などそういったものも要因しているのだろう。ともかく、当面は上手くやっていけそうで安心した。

「ルーク。ちょっと休憩にしようぜ」
「わっ!脅かすなって」

顔めがけて軽くタオルを投げてやれば、小言を言いながらもすぐに受け止めてしまうのだから、反射神経の良さに驚いてしまう。初めて会った時とは比べものにならないくらい動きも俊敏で木材も軽々と持ち上げるのだから、もしかしたら腰にさしている剣はお飾りではないのかもしれない。
いつか体調が万全になったら手合せでもしてみるか。存外、いい勝負が出来そうだと期待しながらルークを見れば、天気がいいせいか流れるように出てくる額の汗を吸い取りながら作業をする人たちの様子を興味深そうに見つめている。

「ここってすごいな。なんでも自分たちで作っちまうんだから」

目を輝かせながら感嘆するように口から出た呟きは本心からのようで、驚きと尊敬がにじみ出ているかのようだった。重労働をしているというのに笑顔で何か言い合いながら作業する下町の住人たちは、不自由さなどおくびにも出さず前向きに生活している。それを思えば俺だって皆の事をすごいと思うが、それを素直に口に出せるルークの事もすごいと思うと共に危機感を感じた。

「ここの住民は逞しいからな。それに魔導器がなくなってから大分たつし、慣れて来たんじゃねぇか」
「魔導器...?」

不思議そうにこちらを見て呟く姿はザーフィアスの事を聞いた時と同じ反応だった。帝都のことはドが付くほどの田舎者なら知らないという事も万が一にもあり得るかもしれないが、まさか魔導器を知らないなんて事はないのではないだろうか。 訝りながら見つめてみれば、はっとしたように焦りながら手をバタバタと振り回してごまかそうと躍起になっている。

「ああ!魔導器な魔導器!あれってほんとないと大変だよなー」

どことなくイントネーションが違っているのと、焦った物言いに台詞を棒読みしたような口調。十中八九、魔導器なんて知りませんと言っているようなものだ。口を滑らせまいと固く口を引き結んでいる姿はあまりにも頑なすぎて、不自然だという事に本人は気が付かないのだろうか。

「なあ、ルークは」
「あっ騎士団が帰ってきたよ!フレンいるかなぁ」

言いかけた途端に近くにいた子供の嬉しそうな叫び声に俺の声はかき消されてしまった。子供の声に釣られるように坂の上を見てみれば確かに帝都指定の防具を身にまとった集団が闊歩しており、隊服の色からもフレンの直属隊だと見て取れる。作業をしていた手を止めて手を振る人もいれば、そちらへ向かって歩いていく人の姿もあり、フレンの人気は相変わらずで思わず苦笑が漏れた。

「ねぇ。ルークも行って見ようよ」
「ん?ああ」

近所に住んでいるルークに良く懐いているその小さい子供は戸惑うルークの手を取って坂の上まで引っ張って連れて行こうとしている。そういった事に慣れていないというのは子供の歩幅に合わせるのに悪戦苦闘して足を出すタイミングがばらついている事からも見て取れた。それを微笑ましく思いながらも、思い返せば結局ルークについて聞きそびれてしまった。まあそんなに焦って聞かなければならないことでもないだろう。いつまで下町に留まる予定なのかは今のところ検討もつかないが、素直で人を疑わないルークを一人で街の外へ出すなんて、考えただけで前途多難でため息が出る。そう自分で納得して、こちらを気にして振り返りながら走るルークを追いかけてフレンの顔でも拝みに行ってやろうと少し急な坂道へ足を向けた。




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