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「フレンー!」

やっとルークに追いついたと思ったらルークの手を引いていた子供は一目散に隊列の前の方へと一人で走って行ってしまった。それに呆気にとられながらも俺の方を振り返ったルークは、しょうがないよなと苦笑しながら近寄ってくる。さっきの質問を問いただそうかとも思ったが、騎士団を見つめるルークの目に不安げな印象を受け、一瞬言葉が詰まってしまった。何か騎士団に見られると都合の悪いことがあるのか、それとも騎士団や兵士に悪い思い出でもあるのだろうか。ギルドに属している奴なら騎士団相手にあまりいい顔はしないだろうが、魔導器がなくなってからは表面上は穏便に協定を結んでいるし、露骨に態度に出す奴もそうそういないだろうに。
ルークの外見年齢や戦争の時期を考えてみれば、もしかしたら騎士や兵士に虐げられたことがあるのかもしれない。

「大丈夫か?ルーク」
「っえ?ああ、大丈夫」

心ここにあらずといった様子で隊列を眺めていたルークは声をかけるとやっとこちらの方を向いた。その顔はもういつも通りに戻っていて、うっすら微笑すら浮かべているのだから、たまに見せる表情の持ち主が果たして本当にルークなのか疑問にすら思ってしまう。

「ならいいんだけどよ」
「ごめん、心配かけちまって。あの子が結構強く引っ張るもんだからさ、そろそろ戻るよ」

ルークは左手をひらひらと振りながら先程の子供の方を伺い見れば、何かに驚愕したように表情が一気に消えた。

「ガイッ!」

隊列の数人が振り返るほどの大きな声で叫ばれた名前は初めて聞くもので、ルークという名前同様ここいらではあまり居ない様な名前だった。

「ルーク!?」

気が付けば目の前には流れていく赤髪だけで、驚くほどの速さで隊列の先頭の方へと走って行ってしまう。騎士団の中にガイという人物はいただろうか。考えてみても自分が在籍していた時にはいなかったとしか考え付かないが、もしこの機会にルークについて何か分かるのならそれに越したこともないだろう。もしかしたらそのガイという人物に事情を聴けばルークの不可解な態度の理由もわかり、更に共同の生活も終わるかもしれない。そう思えば嬉しいのだか寂しいのだか言い知れない感情が渦巻いた。ともかく、そのガイとやらに話を聞くためにも脱兎のごとく走っていくルークを追わなければならない。
思いのほか早いルークの足は目当ての人物までたどり着いたようでいきなり立ち止まると、抱き付きそうな勢いでその人物をまじまじと見つめている。

「...フレン?」

ルークが居る位置はまさに隊列の先頭で、そこにいるのは隊長などの役職と相場が決まっている。追い付いて隣に並んでそいつを見やれば、やっぱりそれは良く見知った幼馴染の顔で、それを決定づけるようにソディア達がルークを睨みつけているのだから間違いはないだろう。

「えっと、すみません。人違いではないでしょうか」
「あ、えと、すみません。そう、みたいですね」
「...あ、ユーリ」
「あってなんだよ。あって」

軽くフレンを小突きながらルークの方を盗み見れば、今だ驚きを隠せないといった風にフレンの顔を凝視している。居心地が悪いのだろうフレンは、助けを求めるように俺の方へ視線を流してきた。それにやれやれとため息をついてルークの肩を叩けば、俺が隣にいたことを今知ったのか、また違った驚きで声を上げている。
まったく、失礼な奴らだ。

「ルーク、ガイって人は見つかったのか?」

聞いてみれば、首を振りながらもやっぱり納得がいかないとでも言うようにフレンの方をちらちらと横目に見ている。フレンはこちらの様子を見て時間がかかるようだと踏んで、早々に自分を残して隊員を城に向かわせるよう部下に指令を出した。見ない間に大勢を従える方法を熟知し、さらにそれが様になっている親友に少し驚いてしまう。ゆっくりと進みだす隊列を眺めたあと、フレンはこちらに向き直って笑顔を浮かべた。

「久しぶりだねユーリ。帝都に戻っているとは思わなかったよ。ところで、こちらの方は?」
「久しぶりだな。こっちはルークだ。なんていうか、訳合って今はうちで暮らしてる」

フレンの相変わらずの丁寧な物言いに思わず笑顔が浮かぶが、ルークを見る目には少し緊張が含まれている気がする。まあ、さっきのルークの凄い勢いは見ているこっちでさえ気迫を感じたくらいだ。それを正面から受けたんなら気まずいというか、緊張もするだろう。

「こいつはフレンだ。俺の腐れ縁で今は騎士団の団長やってる」
「よろしく。ルーク」
「...よろしくお願いします」

ルークはフレンの顔を重点的に背格好から髪など様々な部分を目視して確認しているようだ。そんなに見られたら誰だって緊張するだろうに、ルークは少しぶしつけな所があるようだが、まあ気のいいフレンの事だからそこまで気にもしないだろう。それにここまで見つめるくらいだから、雰囲気とかなにかしらそのガイという奴に似ているのかもしれない。ルークの方を見やれば今度は顔を手で押さえながら何かを考え込んでいるらしい。俺は丁度良くフレンに会う事が出来たしオールドランドやルークの来た時の状況を話して意見を聞きたいのだが、ルークがいるとまずい訳ではないが少し話しにくい。

「後で時間ができたらうちに来てくれ。聞きたいことがあるんだ」
「ユーリからなんて珍しいね。陛下に報告が済んだら行かせて貰うよ」
「ああ、おっかねぇ部下は置いてきてくれよ。お前が行く場所ならどこにでも着いてきそうだ」
「ソディア達のことかい?任務に忠実なだけだ、そんなに毛嫌いしないでくれ。それと僕も君に聞きたい事がある」
「ああ、んじゃ、またあとでな」
「ああ。じゃあルークも、またね」
「はい」

軽くこぶしを突き合わせればそれが合図のようにフレンは身を翻して城の方へ向かっていく。騎士団長様ともなると陛下へ直々に報告まであるのか。面倒なんだなだと思いながらも、自分の親友がそんな立場にいる事に面映い気がした。フレンを見送ったあと、ルークへと顔を向ければやっぱりフレンの方を見つめており、じっとその姿を追うように動く目はそれ以外何も見ていないようで面白くない。そう思う事に少し疑問を抱きながらも下町の手伝いをそのままにしてきてしまった事を思い出して、ルークの肩に手を置けば、少し悲しそうな顔をしていた。

「そんなにガイって奴にフレンは似てたのか?」

シュンとした姿が余りにも見ているのに忍びなくて、そのまま下町へ向かうよう促しながら聞いてみれば思い出すように空を見上げながら一つ一つ特徴を並べていく。

「そっくりだった。短い金髪に、青い目、身長も俺より高くって、年も確か21だったから大体同じくらいだろ?ほんとに、本人かと思ったのに」

そう言うと今度は足元へ視線を移して俯いてしまう。確かに特徴だけ聞けばフレンと見た目は一致するが、見間違えるほど酷似している人間など世界中探したとしても一生に一度出会えるかどうかだ。もしかしたら、そのガイという人物はフレンとまったく同じような容姿でそのオールドランドとかいうところにいるのかもしれない。自分を納得させるように結論を出して空を見上げれば少しの休憩のつもりが、思いのほか時間を食ってしまったようだ。ルークについて新しい情報を得られる可能性を見つける事が出来、隣にいる寂しげな顔が少しでも満面の笑みに近づけはよいと思いながら下町の喧騒の中へと早足に坂道を進んだ。







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