SEED
□俺、あんたのこと
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一途な想いは
届くのか……
『俺、あんたのこと』
〜オーブ・ショッピングモール〜
「ここか…」
シンの目の前には男一人で入るには少し気恥ずかしい可愛らしいお店があった。
ただ、シンは何も感じずに店に入り品物を見定める。
これから行く所にいる人へのプレゼントのために。
前にその人が言っていた可愛らしいお店。
本当は一緒に行きたいけど、それは無理な事だから。
「これだ!」
決めていた品物を購入して、外を出てふらふらと歩いていると。
「あっ!」
目の前を歩いてくる黒髪にサングラス、変装していても分かるその人物が自分の視界に入り立ち止まる。
「シンッ!」
今から会おうとしていた人は、サングラスを取って直ぐにシンに気づき笑顔で向かってくる。
「タイミング悪っ」
ボソッと少し苛ついて言うシン。
「何か言ったか?」
「別にぃ〜ていうか、何でこんな所にいるんだよ! 護衛もつけずにさあ(……ま、本当は周りにいるけど)」
少しイラつきながらも、最後は小声で周りを気にするシン。
「あ、あぁ、その、周りのみんなが今日は休めと言ってくるので追い出されてしまってな。私は疲れてなどいないのだが勝手に私服を着せられて、カツラをセットされて、ここに車で連れてこられた」
「ふーん……(あんたの睡眠時間が一日三時間でつい先日も過労で倒れて、家で休ませようとしたって、結局は公務を続けるから。だろ?)」
シンは知らないフリはしたが、心の中では真相を語っていた。
「シンも、一人なのか?」
キョロキョロと辺りを見渡すカガリ。
「まぁ……」
「そうか! なら私と一緒に一日過ごさないか?」
「は?」
思わずそう答えるシン。
「用事があるのか? 私の迎えは六時にならないと来ないし、一人でいてもつまらないんだ。ダメか?」
「あっそ、まあいいよ。付き合ってやっても」
内心嬉しいくせに憎まれ口を叩くシン。
「ありがとう!」
ニコッと笑うカガリ。
「別に。それで、何か行きたいとことかあんの?」
「いや、特にはないんだが。そうだな、服でも買おうかな」
「なら、あっち。行くぞ」
シンがお店のある方を指差して二人は歩き始める。
「なぁ? 私の格好おかしくないか?」
「は?」
「いや、私はこんな格好あまりしないからさ」
カガリの格好は、ノースリーブのシャツに胸元はリボン、膝丈の夏らしい薄い緑のスカート、靴は白のミュールである。
いつもは見せない女性らしい格好だった。
「(アイツの趣味っぽいけど)……まあいいんじゃない? アンタはスタイルいいし」
「そうか? ならいいや」
ふふっと嬉しそうにするカガリ。
「意味わかんねぇ」
「まぁ気にしないでくれ。それよりも意外と人が多いんだな……」
「それが平和な証拠だろ」
「そうか。それは嬉しいな」
カガリが周りの人達を見てすごく嬉しそうに笑う。
その顔を見てシンは、カガリに気づかれないよう横を向き可愛い姿に拳をグッと握った。
「なぁ。普段の服ってどんなの買うつもり?」
「私は、動きやすい服だ!」
自信満々に答えたカガリ。
「……聞いた俺がバカみてぇ」
クックックッと楽しそうに笑うシン。
「むっ、ならシンはどうなんだ?」
「オレ〜?そうだな。フード付きが好きだしカジュアルなやつ」
「そうか。確かに……シンはオシャレだよな」
カガリはシンの格好を見てそう呟いた。
「そうか?」
「私も、こんな感じの違う格好にしてみようかな」
カガリはヒラヒラしたスカートを見て言う。
「それより俺が選んだの着てよ」
「シンが? それもいいな。任せるよ」
「え、いいの?」
「ああ、今日は一日デートみたいなものだろ?」
「まぁ、そうだけどさ」
嬉しくてシンは思わず下を向く。
「なあ、服屋はまだなのか?」
「うっさいな……そこのエスカレーターを上がればすぐだよ」
「そうか!」
カガリはクスッと笑いながら、エスカレーターに乗った。
シンも後ろに乗り、カガリの後ろ姿を見る。
(別人だ……)
そう思うと何だかちょっと苛ついた自分がいた。