SEED
□暖かい雨
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想う心は火…
想っている心は水…
相反する二つの心は
同じではないのか…
『暖かい雨』
艦の入り口付近では人だかりが出来ていた。
輪の中心にはラクスがいて、隊員一人一人にサインを書いては「ご苦労さま、お疲れさま」等の労いの言葉を言って渡していた。
隊員達はラクスを人目見たいと集まり、しかもちょうど昼休みだったのもあって隊員の数はどんどん増えていった。
「何だこの騒ぎは!」
イザークは艦に戻ってきてすぐ入り口付近が騒がしいのに腹を立て怒鳴る。
「ラクス様が来ております」
一人の隊士がイザークに説明する。
「ラクス嬢?」
イザークは不思議に思いながらも、輪の中へ「邪魔だ」と言いながら割り込んでいく。
「何をしているんですか!」
本当にラクスが居たので驚くイザーク。
「まぁ、イザーク。こんにちは」
ラクスは座ってサインを書いていた手を止めてイザークを見上げて笑顔で答える。
「こんにちは」
イザークも普通に挨拶を返した。
「先ほどの事です。わたくしが艦に入りたいと申しましたらサインが欲しいと言われましたので差し上げたのですが、書いている間にたくさんの人が集まってしまって……」
ふふッと優しく笑うラクス。
「はぁ、そうですか。……では俺が案内しますよ。どうぞ」
イザークは呆れたが、とりあえずこの状況が分かったのでラクスに尋ねる。
「よろしいんですの?」
ラクスは首を横に傾けてイザークに問う。
「大丈夫です。あと少しで昼休みも終わりますし、持ち場につかなくても赤服の俺には問題ありませんから」
「そうですか。ではお願いしますわ」
ラクスは持っていたサインの紙を隊員に渡してから立ち上がる。
「貴様等も昼休みは終わるぞ!! 持ち場に戻れ!!」
キッと周りを睨みながらイザークが言うと周りの隊員達もソロソロと散会していった。
「あの、ごめんなさい。イザークが案内して下さるようなのでお願いしようと思います」
ラクスは最初に声をかけた人たちに謝った。
「えっ!?」
「いえいえいえ」
声をかけられた数人がラクスに謝られ、動揺する。
「あっあの、俺たちこそすみません ラクス様が忙しい中引き止めてしまって」
ごにょごにょと一人が口を開いた。
「ありがとう」
ラクスはニコッと微笑んで礼を言う。
「いっいえ!」
嬉しそうに隊員が答えた。
「お仕事の方、お体に気をつけてくださいね。では」
ラクスは一礼して、イザークと共に艦の中へと歩いて行く。
一方、その光景を見ながら案内を頼まれた隊員達は、羨ましくもあり、少しホッとするのであった。
「ラクス様に話しかけられて驚いたよな〜」
「ああ」
「ただ少し安心した……」
「分かるぜ。オレなんてきっと緊張しすぎて話せないな」
「はは、同感」
そんな事を談笑しながら持ち場に戻っていく隊員達だった。