BLEACH 零

□母と子のお話し
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香姫が産まれる前、紅院家歴代最強と言われていたのは祖母だった。

そんな、天才と呼ばれた母をもつ娘のお話し。




『母と娘のお話し』




「瑞姫様 千姫様がお呼びです」

庭にある桜の木を眺めていた瑞姫の後ろで、流香が話しかける。

姫様は何も言わずにジロリと彼を睨みつけた。
流香は慣れているので気にせず屋敷へと足を向けて歩いて行くが、瑞姫は動かずにいるので振り向く。

「行きましょう」
「行かぬ」
「…今度は何をしたのですか」

はあっとため息をついて流香は腰に手をあてた。

「何もしておらぬわ! いつも済ました顔をしておるそちを困らせてやろうと思ってな」
「馬鹿ですか」
「なっっ!!」

瑞姫はカッと頭に血が上り彼に詰め寄り殴りかかるも避けられ、その後の攻撃も軽々と避けていく彼。
クスリと笑う顔に瑞姫の苛々は頂点に達した。

「動くな!!」
「……」

その一言に流香はピタリと止まるので、頬に瑞姫の拳があたり流香はよろめく。

「なっ…」
「っ…問題ありません」

流香は何も無かったかのように笑うが、頬は真っ赤になっていて唇は切ったようで血が滲んでいた。

「なぜ避けない!」
「命令でしたので」
「嘘だと気付いていたじゃろ!」
「瑞姫様の御言葉は絶対です どんな時でも」
「…っ」

怒っているようにも泣きそうな顔にも見れる瑞姫。流香の頬に手を触れて謝ろうかと年相応な顔をするその表情を見て、流香はとても満足していた。

「瑞姫様 千姫様がお呼びです」

少し離れた所で律は声をかける。
瑞姫は手を離して律の横を通る時、一度立ち止まった。

「流香の手当を頼む」
「はっ」
「そちも何れ試験を受けるのであろう」
「私は瑞姫様の護衛です」
「では聞くが、そちは母よりわらわの元に居たいとでも申すのか?」
「はい」
「っ、そうか」

律の即答に変に照れる瑞姫はそのまま屋敷の中へ入る。
それを複雑に見ていた流香は律の側に歩いて来た。

「流香 その傷は冷やした方が良い」
「平気」

にこりと笑う流香に、律は無表情のまま「瑞姫様に手当てを任された 行くぞ」と言って、すでに歩き出す。
後ろからついて行く流香はさっきの様子を思い出していた。

「律は試験受けないの?」
「私は父上が亡くなる前に瑞姫様に仕えるようにと言われた」
「そう…」
「それに、当主の護衛になれるほどの力は無い」

後ろを振り向いた律は常に無表情だが、少し怪訝な顔に見える。
二つ上ということで、幼い頃からよく過ごしていた流香にはその表情が読み取れていた。

流香が何も言わないので律はまた別邸へと歩き始める。
二人は庭から医務室に入り自分達で手慣れたように消毒剤などを準備した。

別邸勤務に回道を極めた者はあまりいない。そのため自分達で手当てをするのだ。
重症の場合、本邸勤務の医療班が出向く事になっており町の診療所へ移ることもある。

向かい合わせになり傷口の消毒をして、その後で氷嚢を受け取り頬に当てていた。
律は腕を組み斜め横の椅子に座る。

「この時期荒れることを流香は知っているだろう 瑞姫様をからかうな」
「からかってないよ」
「そうは見えない」
「律こそ瑞姫様のことどう想っているんだ」
「護るべき大切なお方だ」
「違うよ 好きか嫌いかを聞いている」
「好きだ」

即答されて言葉が出ない流香だったが、よく考えてみた。きっと律は恋愛感情ではなく好きか嫌いかで言えばの話し。
再度聴き直そうとした時に外に続く扉が開いた。
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