うちの執事が言うことには

□初めての休日
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花穎は先ほどまで座っていたソファから移動して、チェス盤に駒を並べている。

「蒼馬 チェスは指せるか?」
「はい」
「では、やろう」

花穎はそう言ってポーンを動かした。

そうして始まった勝負は花穎が勝利する。衣更月と花穎の腕はおそらく、ほんの少しだけ花穎が上のようであった。

「衣更月は…チェスも出来るのか」
「烏丸家に御座いますので」
「そうか もう一局始めようか」

そうして二局目はとても良い勝負だったが、ギリギリ衣更月が勝利した。
花穎は悔しそうだが、顔は笑顔である。

「面白かった これなら家でしていても不思議はないな またやろう」
「はい」
「楽しい休日だった」

にこりと笑う花穎に衣更月も微笑んだ。

それから衣更月はキッチンへ戻り夕食の準備を整えて花穎を呼ぶ。

花穎はどれも美味しいと言って食べてくれたのだが、同じものを食べている衣更月は反省した。
火が通りすぎてしまい食材が少し固くなっているのもあり、花穎が美味しいと言うたびに、夕食はやはり手配をするべきだったと悲しくなる。

花穎より今日はちゃんと起きてるから一緒に寝ようと言われ、衣更月は分かりましたと言った。

花穎が寝室へ上がった後、衣更月は手短かに風呂を済ませて明日の天気や現在の飛行機の運行状況を調べ、それが終わるとリビングから玄関までの施錠確認とセキュリティチェックをこなして二階へ上がる。

扉をノックすると今日は返事が帰ってきた。

花穎はベッドの枕に背中を預けて本を読んでいたみたいで、衣更月が入って来ると読んでいた本を閉じてサイドテーブルの上に置くために体を動かす。

衣更月は花穎と反対側からベッドに入り横になった。
一昨日と同じで無心でいようと決めて早めに目を閉じる。

そんな衣更月の横に花穎は近付いた。覗き込む形で衣更月の名を呼ぶ。

衣更月が目を開けると花穎の顔が目の前にあり、とても真面目な顔をしていた。

「僕も愛してるよ」
「…」

その不意打ちに衣更月は言葉が出なくて、ただ驚いた顔をする。

花穎は意外な衣更月の表情になんだか恥ずかくなってきて、衣更月から離れて上体をベッドに沈めた。

「僕もちゃんと思っているからな!」
「はい、ありがとうございます…」

衣更月は隣で花穎の方を見て言ったけれど花穎は反対方向を見ていて動かないので、衣更月が少し近づいて花穎の腕と自分の腕を合わせる。

「お休みなさいませ 花穎様」
「お休み蒼馬」

衣更月はそう言って目を閉じた。
花穎は心臓が早鐘のようだったが、腕に触れる衣更月の腕の温かさにどこか嬉しくなる。

目を閉じて数分後、花穎は眠りについた。

花穎の寝息が聞こえてきて衣更月は目を開ける。

衣更月は腕に触れる愛しい恋人の体温が嬉しくありつつ、理性を保つのに必死だ。

いつか襲ってしまうのではないかと、幼く可愛い彼に苦悩する。

衣更月もようやく眠りについた頃、花穎は寝返りを打ち衣更月にしがみついた。

朝になり目が覚めた衣更月が、体の半分を花穎により覆われていることに気が付き大きなため息をつく。

彼はゆっくりと花穎から離れて、起き上がった。

横で眠る無防備な花穎を見て微笑む。
彼の額に口付けて衣更月は耳元で囁いた。

「その内、本当に襲いますよ」

そう告げた後、寝室を後にする。

花穎はまだ夢の中だ。





Fin.







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