etc…
□舞うこころ
1ページ/8ページ
俺のもの
徴や言葉など必要ない
『舞うこころ』
「おいで露草」
「…」
日差しが暖かく、のどかな日のこと。
白緑に声をかけられた露草はジッと見上げ、こくっと頷き、てけてけとまだ小さな足で後を追う。
白緑は露草を抱え高い木の枝にそっと座らせる。
露草は声には出さなかったが、嬉しそうに自分ではまだ見たことない目線の高さとそして白緑が居るこの居場所を見渡して笑顔でいた。
ただそんな時間は長くはなく、数分も経たない内に露草を邪魔するかのように鶸が木の下に飛んで来た。
そして露草の方へと見上げて話しかける。
「お前何やってんの? 自分じゃそんな場所に登れないくせに」
「うるさい!! ひわじゃま! あっちいけっ!」
自分の至福の時間を邪魔されて露草はこの上なく苛立っていた。
「はっ!」
鶸はそんな露草を鼻で笑い、露草の居る枝を軽々と飛び越えて1番高い枝の上に立ち手を伸ばして枝になっていた実を取り食べる。
「……」
じーっと露草は木々ではっきりは見えないが、微かに影が見える鶸の姿に視線を向けた。
「ここに来れたら少しは構ってあげるよ」
「っ!!」
「ははは」
鶸は勝ち誇ったように笑いながら飛び立っていった。
露草は悔しそうに服をがじがじと噛んで、大きな声でめいっぱい叫んだ。
「―――ばかひわっっっ!!!」
その叫び声が鶸に聞こえていなかったのは幸いで…。
もし、聞こえていたら、鶸は迷わず露草を枝から突き落としたであろう。
―――数ヶ月後
白緑に呼ばれて、仕方なく鶸は歩かされていた。
「・・・は? 何があるわけ?」
周りを見渡しても何もなく、鶸は白緑の悪ふざけかと思ってその場を去ろうとしていた中、樹から何かが「わあーっ」という声と共に、ガサガサと落ちてくるものがあった。
「……はぁ、」
鶸は全くもって面倒くさいと思いつつも、仕方なくそのただ落ちてくる叫び声の主(ヌシ)を片手でキャッチする。
その主はそれでもまだ目を瞑って叫んでおり、服を掴まれ宙ぶらりんの状態になっていることに気づいていなかった。
「うるさい それで何してんの?」
「わあ――・・・あ?」
パッと目を開けると露草は叫んでいた声を止め、キッと鶸を睨んで言い返す。
「うっうるさい! ばかひわっ!」
「…」
鶸がパッと手を離すと露草はべしゃりと地面に落ちた。
「っ〜〜!」
露草は顔を両手で抑えて痛みにこらえる。
「1人遊びなら勝手にやっててくれる?」
「鶸、露草を見ておやり」
白緑はくすりと含み笑いをしながら現れた。
「何が? 樹妖のくせに木々の間に挟まりもせずに無様に落ちてくるコイツを見てればいいわけ?」
「いいから、黙って見ておあげ」
「……」
鶸はチラリと露草を嫌そうに見た。
露草はベーッと鶸に向かってあっかんべーをしてから樹に登り始める。
鶸は殴ってやるため近づくが白緑に止められた。
「鶸が言い出したことだよ」
白緑は鶸の頭にポンと手を置き、登っていく露草を優しく見上げた。