etc…

□独り占め
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まだ分からないのか?


触れていいのは…





『独り占め』



「露草っ」

野原で寝転んでいた露草の元に、突然鶸は空から飛んできた。

露草は隣に立っている鶸をちらりと見たがそのまま黙っていた。


「何だい? 返事ぐらいしたらどうだ それとも毛玉の方がいいのか?」

「うるさいっばかひわ! あっちいけ!」

「そうも言ってられない 行くよっ」

「!?」

露草がふいっと鶸とは反対方向に顔を向けていたのだが、少し早口で話す鶸に腕を捕まれ上体を起こされる。
そしてそのまま軽々と鶸の右肩に抱きかかえられた。


「な‥はっはなせっ!」

「五月蝿いよ しっかり捕まってろ」

鶸は右腕で露草をしっかり支え、地面から離れた。
その瞬間…。

地面には大きな穴が開いて妖が現れた。


「!」

空から見ていた露草は驚いて、思わず鶸の首に腕を回して自分の腕を強く握った。


「お前に手を出そうとした馬鹿な奴さ 白緑の事も知らないような間抜けにお前が傷つけられるのはつまらないからね」

フフンッと偉そうに鶸は言い羽を広げて飛行する。


「わ……」

露草は初めて見る上空からの景色に、先ほどの事を忘れて感動した。


「・・・」

鶸は先ほどは驚いて固まっていた露草が、今度は自分に身を任せて景色を楽しんでいる姿に笑いがこみ上げたが我慢する。


(わあ・・・)

「どうだい? 上からの景色は」

「!」

鶸に言われて露草は自分の姿に気づき、恥ずかしさがこみ上げてきた。

うなりながら腕を離して暴れ始める。


「いきなり何だい?」

鶸は全部分かっているのに「危ないよ」と、優しく言って露草を離そうとはしなかった。


「もういい! おろせっ!!」

露草は腕を回していたのをやめて、ジタバタと暴れ始める。

だが、そんな抵抗は意味を成さず鶸の飛行に数分間だけつき合わされた。



―――数分後



「露草」

「うるさい!」

「降りるよと教えるつもりだったが、まだこのままがいいなら仕方ないな」

クスッと鶸は笑ってわざとらしく羽を動かす。
露草は今度は本気で抵抗し始めて、手足をバタバタさせてもがいたのだが、鶸に「冗談だよ」と軽くあしらわれた。

それに腹が立った露草は口を大きく開けて鶸の肩を噛もうとした所、地面に着いたために下ろされる。


「っ…」

「静かだね まだ物足りないのかい?」

「ちがう! おいっ、ここはどこだ!」

露草は辺りを見回して、自分の知らない土地だと気づいた。


「お前に言っておこうと思ってね…ほら」

鶸は少し歩いて行き一つの花をとって露草に差し出す。

露草は怪訝そうに鶸を見上げた。


「この花をやる」

「は?」

「いいね 忘れるな」

鶸は露草が受け取らないことは分かっていた為に、その花をポイッと地面に投げる。

露草はチラリと下を見て、青色の花…という認識だけしかもたなかった。


「花の名を知りたいかい?」

「だれが!」

「ああ、それでいいよ」

ニッと鶸は楽しそうな笑顔を露草に向け、また羽を広げて飛んで行く。


「あ・・・」

露草は空を見上げてうすら笑いの鶸に対して癇癪を起こした。

鶸が見えなくなると、とりあえず気になるその花を拾ってまじまじと見る。
その花はなんの変哲もないただの花。

露草には全く意味が分からなかった。

露草がムスッとしながら花を眺めていると、後ろから来る白緑の気配に気づく。

ピクリと体をその方向へ向き直し、花を地面に置いて白緑の元へと駆けていった。




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