etc…

□触れ合う体温
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穏やかな時間


笑い合う二人




「触れ合う体温」





ネジは手に茶菓子を持って本家に出向いた。

玄関を開けると使用人が出てきて微笑み「ネジ様こんにちは お入り下さい ヒナタ様でしたらお庭におりましたので少々お待ち下さい」と伝えた。
ネジは茶菓子を渡して「そのまま行きます」と頭を下げ、玄関の戸を閉めて庭へ向かう。

お客として用がある時には使用人達も聞かされているので違う応対をするが、何も聞かされていない時はネジを部屋に通して必ずヒナタに伝えに行く。

別にネジがお願いしたわけではないのだが、使用人達の小さな心遣いだった。

ネジは家の角を曲がり大きな庭と長い髪の少女を目視する。
一歩ずつ近づいて行くと彼女も気づいたらしくネジの方を振り向いて挨拶をした。

「ネジ兄さん いらっしゃい」

「お邪魔しています」

ヒナタに近づくと、ふと彼女が胸元に抱えているのに気付いて見つめる。

「‥どうしました?」

「あ、あのね、最近よく庭に現れるの」

「へぇ」

ヒナタの胸には満足げに目を瞑って居座る黒い猫がいた。

ヒナタは「かわいいよね」と言って笑う。

ネジも「そうですね」と言いながら触ろうと手を伸ばすが、猫はピクリと体を動かして声を荒げて威嚇した。

その様子にヒナタは驚きネジは苦笑する。

「邪魔するなと言いたげだな よっぽどヒナタ様の元が心地いいんだろう」

「そんなことないです 猫さんは驚いただけです ね?」

ヒナタは優しく猫を撫でてふわりと笑った。

その笑顔になんて可愛いんだっっ…なんて思ってしまうのがネジである。
少し気を落ち着かせてネジは話し出した。

「…今日は菓子を持って来ました 使用人に渡してあるので後で皆で召し上がって下さい」

「えっ、あ、ありがとうございます ネジ兄さんも一緒に食べましょう お茶を用意してきます」

ヒナタはしゃがみ、腕をゆっくり緩めると猫は地面にストンと飛び降りた。
ヒナタの方を向いて、まだ足りないと言うように尻尾をふりふり回す。

「またね」

頭を撫でながら猫は諦めたのかネジの横をスタスタと歩き始めて出て行った。

「全く、羨ましい奴だ」

「え?」

「いえ、何でもないです」

「変な兄さん」

クスリと笑ってヒナタは部屋へと歩いて行く。

猫といえど彼女の胸元で安らぐなどネジには到底出来ないこと。情けないが猫に嫉妬し思わず漏れた言葉だった。

ヒナタは家に上がるとそのままキッチンへと向かいネジは居間の机の前に胡座をかいて座る。

(ヒアシ様もハナビ様も居ないのか……ヒナタ様と二人きりで過ごすのは久しぶりだな)

廊下からはヒナタの足音と少しこすれた金属音だけが聞こえ、どこか懐かしく思えた。

外から差す温かい日差しのお陰で少し眠くなりそうな昼。
ネジはパタンと畳に仰向けになりぼんやりと聞こえてくる音に耳を澄ませていた。





――――――――――



「お待たせしまし……ネジ兄さん?」

ヒナタは目を瞑って動かないネジを見て驚きつつ、物音を立てないよう机に近付いて静かにお盆からお茶と茶菓子を置く。

あまりに珍しいネジの姿に真横にきて正座をし、お盆を太股の上に置いたままヒナタはじいっと寝顔を見ていた。

寝ているわけではないネジだったが、何だかタイミングを失ってしまいそのままじっとする。

(ヒナタ様は何をしているんだろうか…)

少し戸惑いつつ寝た振りを続けるネジだった。




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