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□舞うこころ
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ガサガサと木々のふれ合う音が静かに響き渡り、露草の姿は真下からでは分からないほど登って行く。
鶸は少し樹から離れて腕を組んで露草を見た。
露草は必死に手足を使い着実に上へ上へと進んで行く。
そして1番高い枝に登りきり満足げに鶸に向かって叫んだ。
「ばかひわっっ!! オレのなまえはつゆくさだっ!!」
(そんなの知ってるけど?‥)
鶸は訳が分からないという顔をした。
「つゆくさとよべっ!!」
「そういえば昔…」
『ここに来れたら少しは構ってあげるよ』
「はぁ‥」
鶸は自分の言った発言を思い出して、それに対してため息をつく。
露草は枝から降りようとせず、ずっと「ばかひわっ!」と、叫んでいた。
鶸は仕方なく露草の元へと飛ぶ。
「五月蝿いよ そんな怒鳴らなくても聞こえている 仕方ないから君をこれからは少しぐらい構ってあげるよ」
「そんなのいらないっ! なまえぐらいおぼえろばかひわ」
「毛玉のくせに‥」
鶸はせっかく自分が折れてやったのに、露草が反論するので苛立ちが頂点に達して一歩ずつじわりと近づく。
露草は意気込んだままだったが、鶸が目の前まで近付いた時には内心で少しだけ恐れていた。
ただ、その時大きな突風が吹く。
木々は揺れ、白緑は上の様子を心配そうに見ていた。
一方上では風が弱まる中で、鶸が髪をまくしあげチッと舌打ちをし再び露草を見る。
「…」
ふと、自分が思い立って切ったままだった露草のボサボサな髪が風によりまた同じような状態になっている姿を見て、思わずあの人と同じ事を言ってしまう。
「うっとうしい髪だね」
「うるさいばかひわ!!」
露草は頭を横に大きく振って髪を動かしていた。
そんな中で鶸は「最悪だ」と、心の中で言う。
(ああ、嫌になる…何であのバカと同じこと……)
その時の鶸にはすでに露草への憤りは消えていた。
「髪を整えてやる 感謝しろ」
鶸は偉そうに露草へと向けて言う。
「は?」
「降りるよ ほら」
露草が意味が分からず放心していると鶸はスッと露草に手を差し出した。
「な、なんだよ?」
「飛ぶから掴まれ」
「いやだ!」
「煩い」
ガシッと鶸は露草の腕を引っ張り、白緑の居る地面まで一気に落ちた。
地面についてから露草は鶸を改めて見る。
「何だい? いいからそこに座れ 人間がやる姿を見ているから出来る」
「い「拒否したら、お前をずっと毛玉と呼ぶよ」
露草はキッと思いっきり睨んでから、鶸と逆向きに座った。
その様子を白緑はくすりと笑ってその場を去っていく。
――――――――――
「どうだい?」
髪を切りそろえ終えて鶸が言う。
露草は結ばれた片方の三つ編みを握り小さな声で「ありがと‥」と、言ったのだったが、呼びに来た白緑の声でかき消された。
そして、結局その日は鶸に「露草」と名前で呼ばれることはなかった。