□じゅりまな
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珠理奈side

無事成人式も終わり、お仕事も何もかも順調なのに、私の心には穴が空いているみたい。

成人式の日に隣でインタビューを受けていてほしかったのは茉夏だった。
幼い頃からずっと一緒に走ってきたはずだったのに。

茉夏は卒業して、道が変わってからもう何年も経つのに私だけは前に進むことが出来ていないんだろうなぁ。

1度だけ。
1度だけ電話をかけてみよう。

近況報告をしたい、なんてそんな形だけの理由だけど茉夏はわかってくれるはずだ。
私がただ声を聴きたかっただけ、というのが。

静かなホテルの部屋に携帯から明るい音だけが響く。

出て欲しいとも思うけど、出ないでとも思う。

「...じゅっちゃん?」

あぁ、茉夏の声だ。

「もしもし。」

「もしもし。どうしたの?」

きっといま茉夏は電話越しにいつものふわりとした笑顔を浮かべているんだろうなぁ。

「最近どうかなって思って。」

「それでわざわざ電話くれたの?特に変わりはないよ。周りと一緒に普通に一般の人として生きてる。」

「大学は?順調?」

「順調だよ。もう2年生だしね。バイトもしてるし、楽しんでるよ。」

「そっか。」

「じゅっちゃんお仕事は?」

「今日はもう終わりだよ。いまホテル。」

「そっかぁ。じゅっちゃんはまだアイドルなんだもんね。」

茉夏の言葉が心に突き刺さる。
もう私と茉夏は同じ世界で生活してないんだと痛感した。

「うん、あと5年は卒業しないかな!」

「あはは!スピーチで言ってたもんね!じゃあ、私はあと5年はじゅっちゃんのファンだね。」

思わず泣きそうになった。
どんなに離れてても、連絡を取らなくても、茉夏は私のことを見ていてくれたんだ。

「ありがと。ドラマもあるし、結構忙しいんだよ!」

「あぁ、金髪にしてたよね!...すごい似合ってた。」

「ほんとに?茉夏に褒められたら自信つくなぁ。」

「ほんとほんと!私は似合わないだろうし、しないけど。」

笑い合って、他愛もない話をするこの時間がとても幸せで。

「...やっぱり茉夏のこと好きだなぁ。」

「なにいきなり。私もじゅっちゃんのこと好きだよ?」

「ふふ。ごめんね、私もう寝なきゃ!明日早いんだ。」

「私もそろそろ寝ようかな。明日もお仕事頑張ってね。」

「ありがと。茉夏も学校楽しんで。じゃあ、またね。おやすみ。」

「うん、また今度ね。おやすみ。」

通話を終了した携帯をベッドに置けば自然と流れてくる涙。

気付かれなくてよかった。
気付かれる前に切ってよかった。

「茉夏に会いたいな...。」

でも、たぶん会わない。
私の"好き"が消えるまでは会えないよ。

end

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