刃を交えるとき

□6話 昼下がり
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「一くん、型変えた?」

木刀を持った手を眺めながら沖田が訊ねる。

「いや、変えたつもりは無いが…」

どうかしたのかと斎藤が目を向けると沖田は何でもない、と言った。その様子が何となくぎこちないと感じられたが、それ以上斎藤は何も聞くことはしなかった。


「しっかし総司と一くんの打ち合いは相変わらずすげーな。あんなの見せられたら俺もやりてぇんだけど!」

感化させられた平助が声を上げる。

「僕は嫌だよ。疲れたし、ミツキにも逃げられたみたいだから。」

手をヒラヒラと振りながら道場を後にする総司の言う通り、ミツキは斎藤の勝ちが決まった直後に原田にだけ声をかけて、こっそりその場を去っていたのだった。捕まる前に尻尾を巻いて逃げる猫のようで、それを見送る原田が吹き出してしまうのもしょうがない。

「何だよつまんないなぁ。じゃあ一くんは?」

「俺はこの後副長と話がある。今は無理だ。」

「なっ、一くんまでっ」

「まぁまぁ平助、ここは大人しく1人で稽古でもやっておけよ。」

ぽん、と頭に手を乗せてニヤニヤしてくる永倉に言い返そうと躍起になる平助。そしてさらに躍起になる永倉。


「そうやって見てるとお前ら兄弟みたいだぜ。」

苦笑しながら原田が呟く。するとすぐ隣から返事が返ってきた。

「うんうん、微笑ましいねぇ。」

「だろ?………?…!?」


原田の隣には先ほど逃走したはずのミツキの姿があった。原田が驚いて一瞬肩をびくっとさせたのを見逃さず可笑しそうに笑っている。新八と平助は派手に仰け反り驚かせるなと叫んでいた。

「一本取られたな。」

そういう原田はその大きな手のひらをミツキの頭に乗せ優しく撫でる。いつものように気持ちよさそうに目を細めるミツキを見るたびに思うのは…


「やっぱり猫だな。」


ミツキは文脈の無い言葉に首を傾げながらも「犬なんだけど…」と小声で訂正を入れたのだった。
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