月に願いを
□2夜
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呆れた顔をしている両親を前に、俺はこれまでしたこともないような表情をしていた。
「頼む、面倒見てくれへんか」
「そんなこと言われてもなぁ……」
ちらりと俺の隣に居る彼女を見て、深く溜息をついた。
なるべく濃紺の彼女を怖がらせないようにし、そのまま俺の家へと連れてきた。
いつもより遅めの帰宅となっていたので、普段ならまだ帰宅していない親父の車が停めてあった。
横を見やれば、不安げな瞳がこちらを見ている。
住宅街に入り、灯りが増えたことで彼女の色がより鮮明に見える。
―綺麗な色やな。
またそんな事を思いながら、俺は家のドアを開いた。
俺の必死の説得の御蔭か、はたまた彼女の傷痕を見てか。
親は彼女の面倒をうちで見ることに関して、許可をくれた。
条件付きで、だが。
「光……」
「ん?なんや、沙羅」
あの日、気紛れから始まった我が家での彼女の居候生活。
分かった事は彼女の名前だ。
苗字は教えてはくれなかったが、名前は教えてはもらった。
「……ここ、分からないの」
「ん?あぁ、これか。これやったらXこれに代入すればええで」
それからもうひとつ。
俺と同い年の中二だということ。
空き部屋が無い為、今は俺の部屋で一緒に生活をすることになっている。
勿論、年頃の男女が同じ部屋で共に過ごすと言うのに関しては両親から咎められた。
かといって両親の部屋では困るし、何より彼女が俺に懐いている…と言っては少々可笑しいが、そうなっているから自ずと俺の部屋となったのだ。
「光、できた」
「おぉ、よかったやん」
そう言いながら彼女の頭をそっと撫でてやる。
自然と口元に笑みが零れた。
表情の欠けた彼女の瞳にほんの少しだけ違った色が見えた気がした。