月に願いを
□3夜
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「ほな、行ってくるわ」
「…行ってらっしゃい、光」
朝練の為にいつも通りの時間に家を出た。
彼女が俺の家に来て1週間が経つ。
朝は毎回彼女が見送ってくれる、それが日常の一部へと変化していた。
平日の昼間は彼女は家で勉強をしている。
きっと、彼女なりにやることを見つけているのだろう。
その日によっては市立図書館から借りた本を読んでいたり、テレビを見たり。
両親とも大分打ち解けてきたようで、ある程度の会話ならそつなくこなせるようになった。
当り前のような事でも、俺には嬉しく感じる。
だが、同時に少し寂しくも思う。
家に来たばかりの時は俺の近くにずっといた。最初こそ警戒していたようだが、特に気にせず過ごしていたら警戒心が解けたようで。
まるで猫のようだった。
少しずつ会話が続くようになり、次第に俺以外との関わりも徐々にだが増えた。
…なんだかお気に入りの玩具を取られたような気分になってしまう。
彼女が玩具だとは勿論思ってないのだが、どこかそう錯覚してしまうのだ。
きっと、彼女が俺に齎した変化なのだろう。
それは、唐突だった。
「なあ財前、今日家行ってええ?」
「…は、何いきなり言ってはるんですか部長」
「いやな、なんか最近自分機嫌ええやろ?んで、その理由知りたくてな」
…部長に分かる程行動に現れていたのか。不覚だ。
いや、それよりも。
今はこの危機的状況を絶対に回避しなければならない。
彼女の存在を知られたくないのだ、特にこの目の前の人には。
最近やっと人と関わるのに慣れてきたのだ。
こうも独特…?な人間と関わってしまって彼女が大丈夫なわけがないだろう。
絶対に面倒な事になるのが目に見えている。
「な、偶にはええやろ?」
「ん?なんや、白石光ん家行くんか?」
「せやで」
「まだ良い言うてないですやん」
「やったら俺も行くわ!ええやろ?光」
「だからええ言うてないやろ」
「おっしゃ!ならさっさと片すで!今こそスピードスターの本領発揮やっ!」
そう言って光の如く何処かへ消えた謙也さん。
……どいつもこいつもいい加減にしろやボケ!!
部長はのんきに謙也速いなぁ…流石浪速のスピードスターやな…なんて言ってる始末だ。
…どうやらフラグ回避は不可能なようだ。