月に願いを
□4夜
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このまま彼女に逢わせるのは流石に不味いと思い、母さんにメールを送る。
『なんか先輩家に来る事になったねんけど、沙羅に平気か聞いてくれへん?』
『何人なん?人数多いんは嫌や言うとるで』
『一応部長と謙也さんの2人』
『やったら大丈夫やって。
せやけど気ぃつけてな?まだ私らにも慣れたばっかやで』
『分かっとる。ほな、頼むわ』
……彼女からはOKが出たが、それでもやはり気がかりだ。
結局あのまま謙也さんが本当にスピードスターの本領を発揮した御蔭で、終わるなと念じていた片付けも終わってしまい。
そのまま空間の塵と化してしまえばいいと心の中で愚痴を溢していた。
まだ口に出していないだけマシだと思って欲しい。
そして時の流れとは早い物で、あっという間に自宅の前へと着いてしまった。
「なんや楽しみやわー、これで財前の機嫌の良さが分かるんやで!」
「なんや、白石も気付いとったんかいな…
てっきり俺だけやと思っとったわ」
此処に来て謙也さんも気付いていた事が発覚。
本当に過去の自分を殴り殺したい。
「はぁ……んなこと喋っとる暇あるんやったら置いてきますよ」
「なぁ!?置いてくんは酷いやろ光!折角此処まで来たんやで!」
「はいはい、五月蠅いっすわホンマ」
謙也さんを適当にあしらいながら、憂鬱な気分を引き摺ったまま玄関の戸を開く。
「……ただいま」
いつも通り帰宅を告げれば、そこには出迎えてくれる彼女の姿は無かった。
まあ、当然と言えば当然なのだが。
彼女が居ないと分かると途端に気分が急降下していく。
ただでさえ先輩等が来るというだけで低かったテンションがさらに下がっていく。
「あら、いらっしゃい白石君に忍足君!」
「お邪魔します、財前のお母さん」
「邪魔します!」
少し不貞腐れたような顔をして、2人を居間へと促す。
「……んで、何の用事やったんすか、結局」
「そない嫌な顔せんといてぇな……」
はぁ、と溜息を溢しながら視線を階段の方へと寄こす。
タッタッタ、と軽快な音が聞こえ、まさか…と思いながらそのまま階段に視線を向け続けると彼女がそろりと顔を出した。
嘘やろ………
それはもう、嘗て無いほどに項垂れたであろう。
「………来て平気なんか」
そうぶっきらぼうに告げると、向かいに座っていた2人も後ろを振り返り彼女を見る。
えっ!?と驚いたリアクションを取った後、すぐさま俺の方へと視線を戻した。
「ちょ、財前あの子誰なん!?」
「従姉妹なん!?え、ちょ、光答えて!!」
ああ、もう面倒だ……
そう思わず口にしそうなのをぐっと堪え、彼女を見る。
「ぅ…あ、えっと……」
困ったような顔で、俺と2人に視線を右往左往させている。
普段見れない顔を見れてちょっと嬉しい……じゃなくて。
今はそれよりも彼女の事だ。
「来て平気なんか?上に居ればよかったんに」
少し突っぱねたような言い方になってしまう。
聞いた彼女は俯き、少しずつ唇を揺らす。
「……光の、友達来るって…行ってたから、お母さんが。………その、気になって」
「……そか」
怖がらせないように口元を緩め、こっちへ来い、と合図してやる。
目の前の先輩等は破顔させ、俺を凝視してくる。
彼女は恐る恐るであるが、俺の方へと来る。
裸足でフローリングを歩いているからか、ぺたぺた、という可愛らしい足音をつけるというオプション付きで。
俺の隣に座らせると、擦り寄ってくるように距離を詰めてきた。
それに少し優越感を抱きながら、目の前の2人を見やった。