No Innocence

□7題
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さて、今日は一体何の日か。
それは待ちに待った実家にお泊りの日。この一週間、これを生き甲斐にして生活してきたと言っても過言ではないだろう。
現時刻はお昼の2時。大まかな準備は既に終えてある為、後は細かい物とあれを準備してしまえば完了だ。





殆ど準備完了した。
あとは物置部屋からあれを取ってくるだけだ。ただ手にして持ってこれば良いだけなのに、完全に恐怖が刻み込まれてしまった僕の体はそれだけでも僅かに震える。
逃げていてはいけないんだ。
そう必死に自分に言い聞かせて物置部屋に入っていく。

水色と黒を基調にしたテニスバック。
僕と長年一緒に過ごしてきたかけがえのない物だ。……それでも体は言うことを聞いてくれない。
僕の思いに反して震える体。
小さく大丈夫、大丈夫と呟き、目を固く瞑りそっとテニスバックに触れる。
軽く深呼吸をして、ギュっとそれを握る。ゆっくりと目を開け、目の前の光景を脳にしっかりと伝達させる。この時も絶えず大丈夫、と呟きながら。


「………よし、行こう」


テニスバックを気合で握り、荷物をまとめた鞄とそれとは別の鞄を持ち、行ってきますと呟いて家を出た。











僕が住んでいるアパートから最寄りの駅までは徒歩15分程度だ。近いと言えば近い、遠いと言えば遠いという正直なんとも微妙な距離である。



駅に着いて丁度やってきた電車に乗り込み、暫し揺られれば神奈川まではそこまで遠くない。
県を跨ぐのでそれなりの距離ではあるが、乗る電車を選んで向かえば鈍行よりも大幅に早く着くことができる。

数十分そのまま揺られていたら、いつの間にか目的の駅までに着くことができた。
駅から外に出てみると思いの他日が傾いていて、結構長い時間電車に乗っていたのだと改めて自覚をする。
日の眩しさに目を細めながらも、人の間を縫っていき家のある方向へと足を進めていく。

この辺りは東京の都心程ではないが、人通りが多い。人の体温の所為で空気が余計暑く感じる。暑いのは嫌いだ。……いや、単純に人が苦手なのかもしれない。


「人の少ない通りに行こう」


そう思った僕は、此方に住んでいたときによく通っていた通りに向かった。
なんとなく、そこに行けば会える気がした。
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