No Innocence

□9題
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思わぬ人物との遭遇も無事に潜り抜け、現在は本日のメインイベントでもあるストテニへと来ている。
さらに言ってしまえば、現在体の震えが最高にヤバい状態だ。

流暢に語ってはいるが、僕の思考とは裏腹に体は全く冷静には生れていないようだ。


「桔梗、大丈夫なんか…?」

「平気……」


雅が声を掛けてくるということは僕がそれほどの状態なんだろう。声も震えている。

深呼吸を何回か繰り返してみるものの、やはりそれは僕の気持ちとは一切関係無しに。



どうしようか暫し考えていたら、いきなり雅に抱き締めれた。


「無理せんで、よか……ゆっくり、進めばいいんじゃよ」


ゆっくり、まるで子供をあやすかのように囁かれる。


「雅……僕は、これでも十分ゆっくりぜよ」


体の震えは自然と治まっていった。
そう答えたら、少し困ったような顔をして、軽く頭を叩かれた。


「俺がついちゃるき、安心しろ」

「……うんっ、雅!」


優しげな笑みに、不思議と不安が和らいだ。













もう一度、深呼吸をする。
ゆっくりと手を伸ばす先にあるのはラケット。いつも使っていたお気に入りのそれは、今の僕にはあまりにも大きすぎる負担に成り下がっていた。

―怖い

そう思ってしまう程にだ。


だけど、今は一人じゃないんだ。
後ろに少し視線を送れば、優しい眼差しが僕を見守ってくれている。それを見るだけでやはり安心できるのだ。


少しずつ。
ラケットと手の距離を縮めていく。
指先にグリップ部分が当たった。一瞬体が強張ったが、気合でなんとかした。

息を止め、思い切りグリップを掴む。




ああ、なんだ。
こんなに簡単な事からも僕は目を背け、逃げてきたのか。



そう思ってしまうほどに、掴むという行為は比較的容易にできた。

だが、事はそう上手くいかないようだ。
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