No Innocence

□11題
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そして例の如く授業を順調にサボった僕は、SHRが終わった後も家に帰らずに当てもなく校内をうろついていた。
今日は委員会の日なのだろうか、通りがかった教室で声が聞こえた所もあった。






ふと目に留まったのは音楽室の文字。
そういえば、最近弾いてなかったな…と思って徐にドアノブを捻ってみる。
カチャ、と金属の重なる音が聞こえたと思ったら、ドアが開いた。
放課後とはいえ、鍵の施錠をしないとは不用心だな…と思いながらも中に入ってみると、微かに香水の香りが鼻腔をくすぐった。
放課後に入って、もう結構な時間になったのに未だに香が残っているとは、よっぽど香水をつけていたのだろうか。


足は、迷わずにピアノの前に進んでいた。
そっと蓋を開けてみる。

頭の中に慣れ親しんだ曲を思い浮かべれば、自然と指が動いていた。







曲を弾き終えると、ドア付近で物音がした。


「……誰?」


そうその音…いや、人に投げかけると、申し訳なさそうに眉を下げた銀髪の少年が出てきた。


「す、すいませんっ…!勝手に聴いてしまって…」

「あ、いや……大丈夫?です……僕こそ勝手に入ってきちゃった訳だし」


お互いに低姿勢で話しているなんて、傍から見たら実に滑稽な絵面だ。


「少年、君は聴いていて楽しかった?」

「え……?えっと、なんていうか…はい、楽しかったです!でも、変わった事聴きますね」

「そうかな?僕は自分の好きなように弾いているだけだし、それを聴いている人からしたらどういう風に感じるのかっていうのは貴重な意見だよ」

「そうなんですか……でも、凄く素敵でした!なんていうか……聴いているこっちが曲に魅かれていくような」

「ありがと、そんなこと言ってもらえるなんて久しぶりだな」

「いえ、俺はただ思った事を言っただけですから!……あ、俺鳳長太郎って言います、貴方は?」

「水月桔梗、3年だよ」

「あ、俺2年です、先輩ですね」

「そうなんだ……ふふ、こんな出会い方をしたんだ、君とはまた関われそうな気がするよ。その時はまた……よろしくね」

「は、はいっ、水月先輩!」


それじゃあ、と軽く手を振りながら音楽室を後にした。
最近よく人に会うな、とふと思った。
それと、彼も僕と同じように銀髪だった。少し嬉しく思う。
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