No Innocence
□2題
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『桔梗、なんでも一人で抱えてまうから……そっちに行くん、怖かったんや。皆気付いたんも、かなり遅かった。もう、あんな目に遭うて欲しくない。それは、こっち皆思っとる。せやから、そっちで事情を知っとって、桔梗が頼れるような奴を作らないかん思ったんや。んで、そっちは俺の従兄弟居るからそいつに話したっちゅー訳や。……ほんま、勝手にこんな事してすまん』
「謙也………ほんと、ありがとう。謝らなくていいよ。だって、謙也はただ僕の身を案じてくれただけでしょ?非の打ち処なんてないよ。……そうだ、その従兄弟の名前、教えてくれる?」
『おん。忍足侑士や。あいつもテニスやっとるはずやで』
「分かった。ありがと、謙也」
昼休み、謙也の従兄弟の所へ行こう。謙也の知り合いという時点でほぼ安心できるが、やはり自分の目で確認はしておきたいものだ。
『……あれ、謙也さん誰と喋っとりますん?』
不意に、聴きなれた声が携帯から聞こえてきた。
『なっ、ひ、光!?』
『謙也さん、誰と喋っとりますん?』
「……光?」
『!!……謙也さん、携帯寄こせや』
『ちょお光!?ま、待って!』
『問答無用や』
いつもの光景に、少し笑ってしまった。いや、光景と言うのも変だろう。実際に見ているわけではないんだから。だが、2人で何をやっているのかなんて想像が付くし、目にも浮かんでくる。
『久しぶりっすわ、桔梗さん』
「あはは、久しぶりだねぇ光」
『……桔梗さん、標準語気持ち悪いっすわ』
「はは、ばっさり言ってくれるねぇ……そうだね、今なら戻しても大丈夫かな、少しだけだけども。………久しぶりじゃのぅ、光」
『桔梗さんも、相変わらずその変な喋り方のままっすね』
「ほぅ……光も相変わらずじゃのう、その毒舌」
『ちょ、光ー!?桔梗ー!?』
「のう光、どうじゃ?最近は。僕が居なくて寂しくないき?」
『馬鹿言わんといて下さい、桔梗さんの方こそ寂しいんちゃういますか?』
『おーーーい!!無視せんといてーーー!?』
「ククッ……そりゃもう、桔梗さん寂しかったナリ」
『桔梗さんそれホントなんすか…』
「そりゃもう、桔梗さん嘘ついたことないもん、本心に決まっとるじゃろ」
『2人していい加減にしぃや!!俺泣くで!?』
「『泣きゃいい(じゃろ/っすわ)、このヘタレが。』」
『なんでそこ一緒ーーー!?……もういい、俺泣く、泣いてまう。2人なんか嫌いや…』
何かのスイッチが、オンになった。
これはあれだ、所謂弄りだ。
「そうか……謙也は僕のこと嫌いなんか……」
そう、声色だけは悲しそうに言う。
勿論口元は笑みを浮かべている。
『なっ!?ちょ、待って!?』
「のう光、聞いとったじゃろ…?」
『そりゃもうばっちりっすわ。』
「……桔梗さん寂しいナリ。こんなにも……謙也の事……」
『ちょ、ま、え!?なんなんそれ!?』
慌てている。唯只管に慌てている。そんな謙也は現在進行中で僕と謙也の掌の上で弄ばれているといっても良いだろう。
「謙也……僕の事、嫌い……?」
『なっ……そ、そんな事ないやろっ!!!』
「それは、愛の告白と受け取ってもOK?」
『な……な……なんでそうなるんやーーーー!!』
きっと、今僕と同じように光も口元に笑みを浮かべているだろう。