No Innocence
□11題
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「おい、水月桔梗はいるか」
何処かで聞いた事のある、クソ生意気な声が聞こえた。しかも、僕の名前を口にしている。
だが生憎僕はその声の主とは関わりたくないのだ。貴重な昼休み確保のためにもスルーを決め込む。
放置をしていると、つかつかと随分主張の激しい靴音が聞こえた。と思ったらその音が僕の前あたりで止まった。
嫌な感じしかしないが、それも無視をする。
窓の外をひたすら眺めていたら、無理矢理顎を掴まれて視線の先を変えさせられた。
キャー、という酷く耳障りな女子の声が鼓膜を揺さぶる。
嗚呼、面倒だ。
思わずそう呟きそうになってしまった
「おい、水月桔梗」
「なんでしょうか誰かさん」
「アーン、俺は誰かさんなんかじゃねぇ、跡部景吾だ」
「はいはい、その跡部さんが僕に一体何の用で?」
「今日の部活の時間、生徒会室に来い」
「は?何言ってんの、嫌に決まってんじゃん」
「お前の意見なんて聞いてない、絶対に来い」
「だから嫌だって。僕は家に帰りたいの」
「俺様の命令が聞けないだと?」
「ああ聞けないね。そんなに僕とお話がしたいのならばこの場で言えよ」
「話が長くなるから態々放課後にしてやってんだよ」
「そんな親切心いらないね、望んでもいない」
「大人しく来い」
「…………あーもう分かったよ、行けばいいだろ?行けば。だからさ、さっさと出て行ってよ、邪魔」
「…仕方ねーな。逃げんじゃんねーぞ」
はいはい、と適当にあしらっておけば納得したのか出て行った。
……面倒事が増えた。侑士に警告されていた人物からの呼びだしだから報告すべきだろう。それに何か起きれば僕一人で対処できるとは限らない。
ああもう、本当に面倒だな。
未だに硬直するクラスメイト達を尻目に、深くため息をついてからH組へと足を運んだ。
「ねぇ、侑士いる?」
「あ、ちょっと待ってて。侑士君、呼んでるよ!」
「ん、誰や……?あれ、桔梗ちゃんやん。どうしたん?」
「さっきさ、跡部って奴が僕のとこに来た」
「嘘やん!?……なんて言ったん?」
「放課後、生徒会室に来いって」
「ほんまかいな………俺も行くわ、それ」
「え、ほんと?」
「おん、景ちゃん何言うか分からんしなぁ」
「やった、侑士が居るなら心強いよ。それじゃ、放課後にね」
彼の親切心、いや純粋に心配する心から生徒会室に来てくれるパーティを増やす事が出来た。
それからの授業も当然のようにサボったが、放課後のイベントの所為で気が気ではなかった。ただ只管に時が止まる事を祈っていた。
だが現実は到底そうはいかないし、いってもくれない。
時は進んでいき、あっという間に放課後になってしまった。