短編
□Candy
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自分でも気付かないうちに、鋭くなったアメで口の中を切っていた。
「痛っ……」
「どうした!?」
そう驚く彼の顔を見て、ああ、またやっちゃったのか…と思った。
これが、私のアメをなめている理由と言える行為だ。
周りの人の行動などが自分にとって良くない方向に進んでいると、無意識のうちにアメを砕いて口の中を切ってしまう。
ある種の自虐行為だ。
「……アメで切った」
「またやったのかよぃ…」
「しょうがないじゃん、ブン太があんな顔するから」
全部、ブン太のせい。
私が言った好きな人、というのは紛れもなくブン太の事だ。一緒に過ごしてきて、気がついたときにはもう彼に惹かれていた。
こうしている間にも口の中に鉄の味が広がっていく。
目の前にいるケガの原因に対して、私は長年隠し通してきた想いを言おうと決心する。
きっと、今言わないとずっと言えない気がする。
「ブン太、私ずっと隠してたことがある」
「待った。オレが先に言う」
何を一体先に言うのだろうか、そんな疑問を浮かべていると、彼の口からゆっくりと言葉が紡がれた。
「オレは、名前が好きだ」
「……え?」
世界がスローモーションに変わり、頭の中でさっきの言葉が何回も繰り返される。
スキ……すき、好き?
「え、好きなの!?」
「なんだよぃ、悪いか」
そうそっぽを向いて言う彼がたまらなく愛しく感じて。
切った傷口からはもう血は流れていなかった。
「そっか、そうだったんだ……」
「……で?」
「え、何が?」
「返事だよ、返事!」
「あ、そうだった…」
軽く深呼吸をして、心を落ち着かせる。
緊張と嬉しさで綻ぶ口元を必死で押さえて、彼のようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
「私も、ブン太君の事が…好きです」
満面の笑みでそう言ってやった。
私の返事を聞いたブン太は今、固まっている。
「…おーい、ブン太?」
「…え、あ、わりぃ……そ、その、アリガトな」
「何今更照れてんの?…ふふ、じゃ、これからもよろしくね?彼氏のブン太君!」
「お、おう!!」
いつもの道を、2人で手を繋いで歩く。
唯違うのは、私たちの関係。