長編(幸村・謙也)
□ストーリー3
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気が付くと朝だった。
「よく寝たなぁ…!」
伸びをした。
ふぅ、と深呼吸をして肺に新しい空気を入れる。
『失礼します』
「はい」
看護師だと思い返事すると、そこに居たのは俺と年が近そうな女の子だった。
『昨日から入院してる人…だよね?』
「うん」
『私、新しく来た人に挨拶するのが好きなんだ。まぁ…全員には無理なんだけど…だから、よろしくね』
ぺこりと軽く頭をさげる。
「こちらこそよろしく」
俺は彼女をベッドまで呼んで握手をした。
白くて綺麗な手だった。
『私は隣の病室にいる名字名前です。あだ名は…名前かな?まぁ、何でも良いから気軽に呼んで下さい』
「俺は幸村精市。幸村とか精市とか、好きな方で呼んで」
『うん。分かった』
「…名前ちゃんはいつから入院してるんだい?」
もしかしたら同じように最近かもしれないと思いきいてみた。
『分かんない。でも昔からかなぁ…』
「…分かんないって?」
『入院してから一回、記憶を無くしてるの。病院に関わる事だけ。だからあんまり分かんないんだ〜ごめんね?』
「あ、いや。コッチこそごめん」
『幸村君は悪くないよ。謝らないで?』
「…ありがとう」
名前と名乗る彼女はきっと軽くはない病気と戦っているのだろう。それで、治療中か病気の事を聞いた時にショックで記憶がなくなったんだ。
そんな事を軽々という彼女は強いのかもしれない。
『幸村君はすぐに退院できそうなの?』
「…いや分からない。……でもはやく戻りたいよ」
『そうだよね。…ごめん、無神経だったかな。私には帰る場所がないから分からなくて』
「場所がない?」
『うん。来たばかりなら今までいた場所があるけど、ずっと入院してるから学校とか、病院以外に場所がなくて。』
そう言って、下を向いてしまった彼女はやっぱり強くはないかもしれない。強がっているだけで寂しいんだろう。
はやく退院するかを真っ先に聞いたのも、今まで仲良くなった人が先に退院し寂しい経験が何回もあるから必然的に聞いてしまうのだろう。
この子を一人にしたくない。
寂しさを感じさせないであげたい。
そう思った彼女との出会い。