短編、中編

□1.5人ともう1人
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毎日、毎日、遊びほうけた。
授業をぬけだし電車にのる。
そして人の多い場所へ行く。
そうすればごく普通に自然に女の人が集まる。
その中の軽そうな女を選び、ついて行く。
場所は家だったりホテルだったり。場合によっては外だったりする。周りからしたら普通じゃないだろう。
でも俺にはそれが当たり前の事で通常だった。





行為が終わったあと名前は?と聞かれた。
名前を名乗るという行為に意味があるのかと思ったが、一応に名乗った。

「仁王。」
そうか、相手の名前すら知らないのにあんな事をしていたのか。
と、言っても今更すぎる。
--全くの他人だった、そう思えば虫唾が走った。
…けどそれが、また快感につながる。

「違うって。下の名前」

「知ってどうするんじゃ」

「仁王くん、よかったからまた会いたいなぁって。」

「…雅治。」
適当に名前を言って、相手のは聞かなかった。
それは俺がもうこの人とは寝ないと決めたから。
何故かこの人は、世間一般からみて普通の人になれそうな気がしたから。
俺が邪魔をしちゃいけないと感じたからだ。









―――――-----



過去の事を思いだした。
今は二時限目。
昨日は普通に家に帰ってそのまま直ぐに寝た。
……普通と言っても昔の俺とは違いもう、遊びほうけてはいない。
真面目に授業をうけ、人間関係を正した。
これが現在の、俺の当たり前。そして今はちゃんと名前を知って心から好きだと思える相手を見つけた。
名前が幸せになるなら自分を犠牲にしてもいいと思えるくらいに好きになった。




名前のおかげで俺は周りから落ち着いたと言われ、信頼できる友達もできた。



「…ねぇ、仁王くんはどうして私が好きなの?」

「可愛いとこ」

「それだけ?」

「なんじゃ、欲しがりやのぅ」
「だって仁王くんは1人の人には執着しなかったって聞いたんだもん」
まぁ、その話は確かじゃ。
女にするも友達にするも、執着はしなかった。
名前は俺の過去を知らない。


「…ん、他は優しいとこ。」

「そんなこと言ったら仁王くんの方が優しいじゃん」

「…ハハ。そうかのぅ」
昔の俺を知らない名前はそう言った。
昔を知るやつは'やさしい'ではなく'やさしくなった'という。
…それは仕方ない事だと自分でも分かっている。

「じゃあ名前は俺のどこが好きなんじゃ?」

「私を好きで居てくれる所。」
「そんな所なんや。じゃあずっと名前は俺に惚れたままじゃき。俺はずっと名前を好きでいるからの」

「ありがとう。」
微笑をみせた。
そして俺が一番好きな言葉を紡ぐ。
感謝の言葉はとても落ち着く事ができる不思議な物だ。










―――――----
仁王くんは知らない。
私の過去を。
言うつもりもない。



私は昔、母親に虐められていた。家に帰ると役たたず等の暴言を吐かれ、ひどい暴力をうけた。
そんな母から逃げるため、私は家に帰らなくなった。
人の多い所に行って、お金と場所を与えてくれる男の人についていった。
その代わりに私は男の人に体を与えた。
互いの欲しい物が手にはいる。それで良いと思っていた。
……けど、一度だけお金も場所もくれない人と寝た事があった。





その人は『まさはる』と名乗っていた。
『まさはる』はとても乱雑で、だけど少し優しさがあった。
私が名前をきくと適当に自分の名前だけを言って、私の名前はきかなかった。











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