If I was your lover

□episode.3
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あのカフェで、思いもしない出逢いがあってから数日が過ぎた頃だった。
相変わらず再就職先の決まらない私は、焦って探しても上手くいかないだろうと思い、就職活動は休憩して部屋の片づけをしていた。
忙しさにかまけてなぁなぁになっていた掃除を徹底的に済ませて、綺麗に整頓された部屋でのんびりとくつろぐ。
お気に入りのコーヒーをすすり、…大好きな、彼の曲をかける。
優雅な昼下がり…とは言い難いその曲調は、私にはひどく落ち着くナンバーだった。

そう、私はただこうして蘭丸の曲を聴けていればそれだけでいいんだ。
彼が歌い続けている限り、私は一番のファンで居られる。二人の関係はそれでいい。


「新曲…いつ出るんだっけ…」


リリース日を調べる為にスマートフォンを取ろうと手を伸ばすと、ちょうどその本体が小刻みに震えた。


「あ…圭からメール…」


今朝、「今夜も家に来るの?」と送ったメールの返信がやっと来た。
来るなら来るで夕飯の献立を考えなくてはいけないし、来れないならそれはそれで寂しいけど、少しルーズに自分の時間を過ごせる。
だから出来るだけ早めに返信が欲しいと思っていたのだけれど、時間を見るともう既に15時を廻っていた。


『ごめん、今日接待が入っちゃった』という文字と、申し訳なさそうに頭をぺこぺこと動かす絵文字が画面に表示される。
圭は営業の外回りをしているから、顧客と会う機会は多い。
だからこうして急な接待が入ることは珍しくなかったし、私もそれを残念だとは思うけど、寂しいと感じたことはなかった。

『いいよ、気にしないで。頑張ってね』という返信と共に、可愛いお花の絵文字を送る。
女子の中では味気ないメールなんだろうけど、私なりに可愛くしているつもりだ。
すぐに『明日は絶対行くからなっ』という返信があり、私はその文字を見て一人で頬を緩ませると、スマートフォンをまたもとの場所に置く。

そういえば、私、リリース日を調べようとしてたんだっけ。そう思いながらも体は億劫とばかりにだらしなく伸びをする。


「…夜ご飯、どうしようかな……」


時間帯のせいか、夕飯の事を考えるにはまだ早く、けれど作るのであればそろそろ買い物に行かないとスーパーが混み始めてしまうな…とぼんやり考えていた。

そう言えば、以前圭と行ったイタリアレストランが美味しかったな。
あの時食べれなかったあのパスタを食べに行こうか…。

そんな風に思い立って、私は出掛ける仕度をした。


目的のレストランは退職した会社の近くにあって、社の人と鉢合わせしてしまう可能性もあったけれど、早めに行けば問題ないだろうし、小さなレストランだったから知っている人も少ないだろうと思った。




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