芯樹〜シンジュ〜
□Devil×Devil(後)
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入魔が理事長になってから数日、ヒル魔は周囲が驚くほど大人しかった。
銃器を持ってはいないし、脅迫手帳を使ったところを見た者もいない。
ただ、そこに鎮座しているだけなのに、存在感そのものが余計に引き立ってしまっていた。
何より、『恋仲ではないか』と噂されていた姉崎まもりと、全く会話が無い。
周囲は二人の雰囲気の気まずさに呑まれ、張り詰めた空気が漂う。
まもりは、ヒル魔を横目に見ながら、風紀委員会の集会に向かうために教室を出た。
――あの日、まもりは額に軽い痛みを感じて、目を覚ました。
‐∽‐―‐∽‐―‐∽‐
「いたっ…」
「いつまで寝てんだ」
ぼんやりとする頭を撫でながら、まもりは「凶一くん?」と呟いた。
返事の代わりに舌打ちが聞こえ、驚いて飛び起きた。
「ヒル魔くん!」
ソファーの上に座るまもりと同じくらいの目線に、ヒル魔が屈んでいた。
無言で手を差し出され、思わず目を閉じると、額に弾いた指が当たった。
「った…!」
「風紀委員が、校長室でサボりか?イイ御身分デスネ」
え?サボり?
まもりが、慌てて時計を見てみると、もう昼休みが近い時刻だった。
「…っ嘘!」
凶一くんが起こしてくれると思ったのに…
でも…どうしてこんなに寝てしまったんだろう。
「これに懲りたら、軽々しく何でも口にすんじゃねェよ」
まもりは、ヒル魔の言葉を聞いてハッとした。
「…コーヒー…!」
睡眠薬か何かが入っていたのだろうか…
まもりは、ぶるっと身震いした。
ヒル魔は立ち上がり、無言でその場を立ち去ろうとする。
「あ、ヒル魔くん…」
呼び止められて、ヒル魔は黙ったまま振り向いた。
「…あの、ありがとう…」
返事は無く、彼は何の反応も示さずにスタスタと去って行ってしまった。
そうよね…私、あなたを裏切ったのだもの…。
それでも、あなたは助けてくれた。
‐∽‐―‐∽‐―‐∽‐
ヒル魔は、ノートパソコンを開いてせわしなくキーボードを叩いていた。
まもりがこちらを見ている、それを目の端に感じながら、無視した。
どうしろと云うのだ、アイツを選んだのはテメェだろうに。
まもりが出て行き、ヒル魔は小さく溜め息を吐いた。
部活に行かねばとは思うのだが、銃器が無いせいなのか、いまいちやる気が出ない。
…まァ、俺はもう引退したからな。
そう思うのだけれど、体中がウズウズして仕方ない。
俺も一端(いっぱし)のアメフトマンだったって事か?
あー…ヤダヤダ、少年誌のノリかよ。
自嘲するように穏やかに、ヒル魔は笑った。