金木犀〜キンモクセイ〜

□第六章◆悪魔と王と龍
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「おお、マモ殿。お待ちしてましたぞ」
 門番に名乗ると、彼らはそう言ってマモリたちを迎えた。
「こちらは、マモ殿の従者で御座いますか?」
 大柄な仏頂面の男と、金髪にマントの派手な男。
 この少年の従者にしては、なんだか不釣り合いだ。
「そうです」
 本人がそう言うのだから、仕方ない。
 門番たちは、じろじろと彼らを観察しながら道を空けた。

「もう、愛想笑いぐらいして!」
 ヒソヒソと二人に話すと、二人は責任をなすりつけ合う。
 ああ、頭が痛い。

 しばらくすると、ムサシにも負けないほどガタイの良い男が、「こちらへ」と案内をしてくれた。
 彼は無口だったが、チラチラとマモリを気にしている。
 バレたのかと焦ったが、そうでは無いらしい。
「や、君は、まるで女にしか見えんな」
 ぽっと顔を赤らめて、彼はそう言った。
 マモリは「はあ…まあ」としか応えられなかった。

 この城は、少し変わっていた。
 普通、王家の城は高価な石で出来ていたが、これは木だ。
 木に赤の塗料が塗ってあり、金やら青やら緑やらの飾りがあちこちに輝く。
 塔は無く、一階建ての屋敷がずーっと奥まで広がっている。
果てしなく、奥まで。
 そのどれもが、鮮やかな色をしていた。
 幾度目かの門をくぐった時、辺りは急に拓(ひら)けた。
 どうやら、野外の行事会場のようだ。
 向こうに、階段が見える。
 階段の上には玉座があり、鎮座している人物が微かに見えた。
 思わず歩き出そうとして、大きな手に肩を掴まれた。
「こりゃ、王が良いと言うまで近付いてはならん」
 彼の声があまりに大きいためか、
「良いんだ、ヤマブシ」
 と言う、か細い声がした。
「さあ、もっと近くへ」
 それを聞き、ヤマブシと呼ばれた男は、王の側へと移動した。
 ごくり、とマモリは唾を飲む。
 自分の大陸以外の王家に会うのは、初めてだ。
 階段の少し手前で、マモリを先頭にした三人は止まる。
 マモリは、見よう見まねだが、自国の男性側の挨拶をする。
「お目にかかれて光栄です、陛下」
 二人もそれに倣(なら)い、頭を下げた。
「そう堅(かた)くなるな、俺はもっと楽な方が良いんだ」
 マモリは驚いて、王を見上げた。
 王の年齢は、きっと自分たちと変わらない。
 帽子のような王冠をかぶり、頭は編み込まれた髪だけを残して剃っている。
 上下繋がったような衣を着ており、帯をしていて、足がさばけるように入った切り込みから、ズボンのような物を履いているのが見えた。
 本当に、国が違うのだ。
 城の外はそんな事は感じたりしなかったのに、この城は国の伝統を色濃く受け継ぎ、そして守っているのだ。
「そなた、良い目をしている」
 王は、涼やかに笑った。
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