金木犀〜キンモクセイ〜
□第七章◆龍退治
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エリュシオンとザナドゥの大陸を結ぶ海に、いくつもの小島が点々と存在した。
その一つの島は、海賊たちの拠点となっていた。
自然に出来た巨大な洞窟内は、海賊たちが輸送船などを襲った際に奪った物資を売りさばく、いわば市でもある。
一人の小柄な少年が、その音に気付いた。
彼は駆け出し、出迎える。
羽音が、する。大きな帆を扇(あお)ぐような羽音が。
「お帰りなさい。アゴンさん」
彼は嬉しそうに、龍に乗る人物に駆け寄った。
「おう、イッキュウ」
笑顔で出迎えるのは、イッキュウと呼ばれたこの少年だけで、他の海賊たちは彼らを遠巻きに見ているだけだ。
皆、アゴンを恐れていた。
数年前に突然やって来たエリュシオンの次期国王は、荒くれ者の集まりの海賊を龍を使って組み伏せ、あっという間に首領の座に納まった。
そんなアゴンを慕うのは、アゴンと同じ龍使いの彼だけだ。
彼は元々、代々続く龍使い一族の末裔で、たった一人の生き残りでもあった。
龍と盟約を交わし、その力を抑える事が彼らの役目であったが、近年では龍も滅多に現れなくなり、一族は急速にその力を失っていった。
そして龍使いは龍によって故郷を奪われ、散り散りになり、今では龍を扱えるのは彼だけになってしまった。
数年前、アゴンは兵団を率いてイッキュウの元へとやって来た。
龍を退治するなど、盟約を交わす他無いと諭すと、彼はあっさりとその世界の色を手渡した。
それから何を思ったのか、イッキュウと共に海賊の島へ乗り込み、支配した。
イッキュウは一族にしか扱えないはずの龍を、意図も簡単に乗りこなしてしまったアゴンの腕に惚れ込み、自らも龍と盟約を交わして晴れて龍使いとなった。
「どうだったスか?王の護衛ってヤツらは」
イッキュウは、アゴンに酒瓶を渡しながら尋ねる。
「あ〜悪魔が居た」
酒を美味そうに流し込み、口元を乱暴に拭うと、それをイッキュウに手渡した。
「悪魔…っスか」
と、言われてもいまいちピンと来ない。
「後は…上玉が居たな。男だったが」
アゴンは、昨晩会った少年の姿を思い浮かべて、舌なめずりをした。
「ありゃあ、高く売れるな」
アゴンの言葉に、イッキュウも興味を示した。
「アゴンさんがそこまで言うなら、なかなかのもんっスね!」
「あ〜…売る前に、お前にも試させてやるよ」
言われて、イッキュウは顔を赤くした。
海賊ではあるが、そういう事にはとんと疎(うと)いのだ。
「しかし…あの悪魔…」
龍と自分を見て、まるで恐れる素振りが無かった。
悪魔とは、皆そうなのか?
「…アレも、高く売れそうだな」
イッキュウの手から酒瓶を奪い、彼は一気に飲み干した。