金木犀〜キンモクセイ〜
□第一章◆『箱』
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遥か東の大陸に、栄華を極める王国があった。
王国は、名をグローリアといい、自国を含む三つの国を統治する強大な国家だった。
当代の王は、争いを嫌う平和主義で、国民からの信頼も厚い。
穏和な王のもと、他の二国も治められることを不快には思いはしない。治めてなお、各国を自国に吸収したりせずに、それぞれを独立させるという政策をとったのだ。極めてまれな、平和な国々であった。
その王国の地下に、伝説の『箱』が眠っている事を知る者は少ない。
代々王家が受け継ぐ『秘密』…。
王位継承とともにその『秘密』は、継がれてゆく。
グローリア大国の国王には、后(きさき)は一人だけで、その后が生んだ子もまた一人。
それも娘が。
だが、国王は第二后をめとろうとはせず、娘に婿をとらすつもりであった。
豊かな大地に、ファンファーレが響き渡る。
今日は、王女の戴冠式だった。
国王の娘である彼女が、初めて王女としての位をいただくのだ。
いわば、成人の儀。
城には多くの貴族や王族たち、そして統治下である二国の王たちも招かれ、国をあげての祭りとなっていた。
彼らは口々に噂した。
「いやぁ、私たちは幸福だ」
「噂に名高いグローリア王の姫君を拝見できるのだから」
「お后様に似て、お美しいという…」
また、ファンファーレが高らかに鳴り、グローリア王とその后が王座に現れた。
王は、歳よりも遥かに若く見え、こざっぱりとしていて、わずかに生やした口ひげにどこか愛嬌のある人物だった。后は、王よりも若かったが、しゃんとしていて清潔感のある美しい女性だ。
二人に共通しているのは、人々を見る優しい眼差しだ。
会場にいる誰もが、二人に魅了される。
「本日は、ようこそお越しくださった」
王は、皆をながめて続けた。
「我が娘のために、はるばる…」
王の目は、二国の王たちへ注がれた。
一の国、アルカの王ムサシ。
二の国、ディアの王セナ。
…いずれは、どちらかの王と娘を婚姻させようと、グローリア王は考えていた。