金木犀〜キンモクセイ〜
□第二章◆白騎士団
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「白騎士団、ただいま帰還しました」
シンは、玉座に向かってひざまずいた。
玉座には、威厳ある王と、王子が座り、左大臣も玉座のすぐ側に立ってシンを見下ろしていた。
「ご苦労であったな」
王が口を開いた。
「――して、『箱』はいかがいたした?」
シンは言葉に詰まり、ぐっと身を縮ませて更に深くひざまずく。
「……見つかりませんでした」
「――何?」
「王と王妃を捕えたのですが、『箱』の在りかを聞き出せず…鍵を持っているのは、王女だと云うことは解っているのですが、その王女も一向に見つかりません」
王はわなわなと震え出し、「言い訳は聞かぬ!」と言い放つ。
「…いえ、すべて自分の責任です」
王の機嫌を伺おうともせずに、シンは言った。
王子と左大臣が不安げに見つめる中、王はシンをじっと見据えた後、「さがれ」と命じた。
シンは黙ったまま立ち上がり、丁寧に礼をすると、静かに王の間を去って行った。
「…ヤツは真っ直ぐすぎるのだ」
シンの姿が見えなくなると、王は王子に言った。
「わしはまだ巧くヤツを動かせない。歳の近いお前たちの方が、話せるだろう――タカミ」
タカミと呼ばれた左大臣は、眼鏡をつい、と持ち上げながら「はい」と冷静な返事をする。
「王子とともにシンを」
「かしこまりました、グンペイ王」
タカミと王子は、王の間を後にした。
「…どうしました、王子」
自分の後ろを歩いているはずの足音が消えたので、タカミは急いで振り返る。
「…俺の方が年下なんだ、呼び捨てにしてよタカミ」
「…いえ、そうは参りません。あなた様は、未来の王となられる御方…気安く――」
「サクラバ」
タカミではない、別の声が、王子を呼び捨てにした。
声の主は、シンだった。
「お前…シン!王子を呼び捨てにするなど…」
「いいんだよ、タカミ。俺がお願いしたんだから…ところで、何か用?シン」
シンは、言いにくそうに口を閉じたままだ。
「…場所を変えましょう王子」
沈黙し続けるシンに耐えかねたタカミの提案に、サクラバは心から賛成した。