金木犀〜キンモクセイ〜

□第三章◆廃墟にて
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 マモリは、暗闇の中にいた。
 キョロキョロと辺りを見渡すと、向こうでちらちらと瞬く灯が見える。
 惹かれるように足を向けると、突然、赤々とした炎がマモリを包む。
 よく見ると、それは燃え上がるグローリア城。
 逃げ惑う国民、いななく馬たち、遅い来る騎士兵。
 その凄惨な光景に立ちすくんでいたマモリだったが、急に弾かれたように燃え盛る城へと走りだした。
 崩れ落ちる木々を避(よ)けながら、マモリは必死にセナを捜した。
 あの子は、まだ若いの、死なせたくはない。私の大切な弟…
「セナ、セナー!!」
 ごうごうと、炎がうねりながらマモリを襲う。
 その炎の中に、セナとモンタが騎士と戦う姿を見た気がした。
飛び込もうと足を踏み出した瞬間、背筋がヒヤリとして、目の前が突然暗くなる。
「お逃げください」
 驚いて振り向くと、血だらけのムサシがあの地下室で、ふらつきながら立っていた。
「姫君、『箱』を渡してはいけない」
 マモリは、自分がいつの間にやら『箱』を持っている事に気づいた。
「開けてはなりません」
 …でも、呼んでるの。
 呼んでいるのよ。
 『箱』は、ぼんやりと光り、マモリを包んだ。
 マモリは『箱』の中に、一糸(いっし)まとわぬ姿で膝を抱えて眠る『彼』を見た――。
 あぁ、貴方でしょう、呼んでいたのは。
「開けてはなりません、姫君!」
 ムサシの言葉に反して、マモリは『箱』をゆっくりと開いた。
「姫君!お逃げください姫――」
 ムサシは、彼は、砂と化して消えた。
「ムサシ――」
「よォ」
 ムサシの名を呼びかけたマモリに、更に呼び掛けたモノがいた。
 マモリの手元にあったはずの『箱』は消え、今までいたはずの地下室さえも暗闇に変わっていた。
「いつまでココにいる気だよ」
 マモリに話しかけているのは、『箱』の中に見た『彼』…
開かれた『箱』も、宙に放っては取る手遊びに使われていた。
 マモリは、ふと、気づいた。
 彼は、『違う』。
 彼は、何処か別の場所から――
「お楽しみのトコロ、悪いがな…」
 そう、別の場所から話しかけている。
「いい加減、起きてもいいんじゃねェか?」
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