森艶〜シンエン〜

□免罪歎願
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 体が、熱を持っている気がする。
 ああ、だからダルいのかな。
 カラン、と、氷の音を聞いて、そこで記憶を失くした。
 眠ってしまったのか、どうなのかすら、解らなくなった。



 ヒル魔くん…
「ど…して、抱い…たの…」
 ヒル魔…
「好き…でもない…く、せ、に…」
 ヒル…
「好…き…」


 次に目を覚ました時、ヒヤリとする掌を額に感じた。
「…阿含くん?」
 帰って来たの…?
 舌打ちが、聞こえた気がした。
 また、怒っているの?
 私…何かした?
 どうしていつも、セックスしかしてくれないの…?
 たくさん会っても…
 私、独りの時より寂しくなる。
「…ご…めんなさ…」
 涙が、溢れてくる。
「…テメーは、悪くねェよ」
 優しい掌。
 いつもより優しく、頬を撫でてくれる。
「悪いのは、俺だ」
 だけど、これは…
 阿含くんの手じゃ――
「ごめんな」
 ないっ!
 ガバッと向き直り、手の主を見て、驚愕した。
「ひっヒル魔っ…」
 隣にいたのは、ヒル魔くんだった。
「なっ…なんで!?」
 それで、気がついた。
 ここは、阿含くんの家じゃない。
 阿含くんの家より、少し手狭で、無機質だった。
 コンクリートの壁はむき出し、家具はモノトーン、不要な物は一切排除されたような部屋…
「ここ…もしかして、ヒル魔くんの…」
「覚えてねェのか、めでたい頭だな、テメーは」
 ヒル魔くんは、ベッドの脇に、何か暖かい湯気の立つ飲み物を置きながら、「隠れ家その三」と言った。
 隠れ家?
「そ、その三って…いくつもあるの?」
 ヒル魔くんは、口の端でニヤリと笑ったが、すぐに打ち消して湯気の立つカップを差し出した。
「飲め」
 あったかいレモネード。
 こくりと口に含むと、体が温まるのを感じる。
 体…
 あ!?
「わ、私…服…っ」
 ――は、ちゃんと着ていた。
 薄いピンクのチェック柄のパジャマを。…私のではない。
 まさか――
「1980円。耳を揃えて返しやがれ」
 しっかり、下着まで履いていた。わざわざ、買ってくれたの?私のために?
 ここまで運んでくれて、看病まで――
 どうして…
「どうして?」
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